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傍にいさせて [小説]

Yvon.jpg
✽連れて行け
「タパニ!!前見ろ!前!ぶつかる!!」
ちょっとよそ見をして歩いていたら、隣を歩いていた友達の
クレマンに注意された。
僕が気づいた頃には遅かったのだけど…。
人とぶつかってしまった。
『ご、ごめんなさい!』
「だから、言っただろ~。すみません。うちのバカタパニがご迷惑を…。」
友達も一緒に謝る。
「ぁ゛あ゛?」
上から低い声が僕たちに発せられた。
よく見ると、男性らしいしっかりとした肉づきの男性で、スラッとしていて僕が二人分くらいの身長のようだった。
もしかしてそう見えたのは、僕が女の子のように小柄なだけかな。
男性は掛けていたサングラスを取って、鋭い眼差しで僕を見てきた。
さすがに怖い。
腕を伸ばして、僕の頭の上に手を乗せてきた。
『え…?』
「なんだ…ガキか…。ちっこい。」
目があまり見えないのか、わざわざ僕の身長を確認してガキだと言われた。
「ん?待てよ…なんで、ガキがここにいる?十九から上の奴らしかいないはずだ…あ、飛び級かお前。」
『あの、僕はこれでも二十四なんですよ。』
「びっくりしますよね…こいつちっこいし、童顔だし、行動も子どものままみたいで。いっつも誰かに迷惑かけて…」
「俺の二つ上かよ…嘘じゃねえよな?所属クラスとランクは?」
僕とクレマンはお互い顔を見合わせた。
僕たちのいるここは、政府の特別スクールで、限られた十九歳以上の男子のみが入学できる場所だ。
稀に飛び級で入ってくる子がいるらしいが、僕はまだ見たことがない。そんなことができるのはよっぽど優れた身体能力があるか、頭脳明晰なのか、特殊異能力者かなにかだろう。

このスクールでは、警察や軍が解決できない問題を扱う事を専門とする、部隊(アトゥー)の訓練と育成が行われている。
それぞれの能力において、所属するクラスが分かれていて、
さらに、クラスの中でランクも分かれている。
このランクは定期的に行われる能力テストで上下し、最高のSSから、最低のEまで七ランク存在する。
SSからAは援護隊員として、現場に行く。
二十五までにAランク入りしなければ、強制的に卒業させられ、別の政府が用意した仕事に就かなければならない。
逆に、それまでにランク入りしていたのであれば、そのままアトゥーに入隊して本格的に問題解決をしていく。

『僕とクレマンは、ソワン所属のSランクですよ。ほら、このバッチが証拠です。』
所属するクラスのマークとランクを示すバッチを、生徒達は衣服の見える場所に付けている。
だから聞かなくてもバッチを見ればいいので、不思議に思って僕らは顔を見合わせたのだ。
「俺は…」
「アッ!あなたはバタイユ所属のSSランクのイヴォンさんですよね?」
『え!?なんで名前知ってんの?知り合いだったの?』
クレマンの発言にびっくりした。
バッチには名前は表記されていないから、知らないと呼べない。
「タパニ…お前こそイヴォンさんを知らないのかよ!十七でスクールに特待生として入学して、たった三年で幻のSSランクに選ばれて、今もランクキープしてるっていうすごい人なんだぞ!オレもそこしか知らないんだけど…年下とは思えない…。尊敬してます!」
『本当にいたんだ…飛び級生…。しかもSS。すごい人にぶつかっちゃった。…ハッ!僕ら、ランク下げられちゃったりするかも!わー!怪我しなかったですかー!?』
状況を把握して慌てて、イヴォンさんに問いかけた。
「ぶつかったくらいでランクは下げられたりはしない。俺は平気だ。」
『「良かったぁ。」』
「…ただ…そうだな…詫びたいというなら、俺をバタイユのクラスがある棟まで連れて行けよ。あそこまで行くのにどこまで歩いたか分からなくなった。途中に嫌がらせかと思うくらいの長い階段あるし。」
「はい!分かりました!」
クレマンが勝手に了解した。
授業まで時間がかなりあったから、断る理由は無いのだけど、やっぱりイヴォンさん…。
「タパニだっけか?お前、丁度良さそうだ。肩借りるぞ。」
『へ?』
言うやいなや、僕の肩に手を置いて歩き出した。
「イヴォンさん、オレ、荷物お持ちいたします!」
「自分の荷物くらい自分で持てるし、俺には、人生の先輩に荷物を持たせるとかできない。」
あれ?クレマンと僕の扱いが大分違うような気が…。クレマンとは同い年で僕も人生の二年先輩なんだけどな。

イヴォンさんをバタイユのクラスに送った後、自分たちのクラスに行くと、室内待機していたクラスメイト達に一瞬で囲まれた。

✽政府の狂犬
『なに!?なに!?みんなどうしたの?』
「タパニ!無事だったか!?」「クレマン!タパニをちゃんと見てろよ。」「可愛いタパニが殺られたかと思ったぜ。」「狂犬と衝突したんだろ?」
クラスメイトの1人に急に抱きつかれ、びっくりしてる間にいろんな言葉が耳に入ってくる。
「オレはちゃんと注意したっつうの。タパニが鈍いだけだ。それに、イヴォンさんはあんたらが思ってるほど、悪い人じゃないと思うね。」
『どういうことなの?みんなイヴォンさん知ってるの?狂犬って何?』
どうやら、イヴォンさんを知らなかったのは僕だけのようだった。
「可愛い可愛いタパニに、この俺、サリムさまが丁寧に教えてやるよ。」
『うん!うん!』
「盲目の政府の狂犬ってのが、あのイヴォンの二つ名だ。左目だけぼんやりと輪郭だけ見えるらしいが。」
僕が予想していた通り、目が見えていなかったんだ。
でも、彼はバタイユ所属…バタイユは体術による戦闘を専門としている部隊だ。見えない状態でどうやってやるんだろうか。SSクラスだからSクラスよりも優れてるわけだし…。
「あの人が狂犬って呼ばれてるのは、今から六年前のクリュエル事件が切っ掛けだ。丁度俺等が入学した年にあったやつだよ。覚えてないか?」
『結構前だね。えっと…連日連夜、道に気絶した人が何人も同じ区域内で倒れてて、翌朝発見されるケースが多くて、なぜ気絶していたかそこにいた人たちは何も覚えていなかったやつだよね。』
「そうそれ。あの事件、当初は窃盗が目的じゃなくてただ人を気絶させるってだけだったから、俺等は出番無かったけど…半年同じこと続いて、だんだんエスカレートしていって、ついに窃盗は起きるし、怪我人と死人まで出るようになっちまって、警察が調べたら、特殊能力を有する者の犯行ってことで、俺達スクールの連中も総出だったじゃん。」
『たしか…夜の犯行でバタイユの人たちも数名が怪我負わされて、僕たちはその治療で忙しかったはず。』
僕の所属しているソワンは、治癒能力に長けた人たちの集まりで、傷ついた人を回復させるための技術を学んでいる。
「タパニ、すげぇ頑張ってたよなぁ~可愛いかった。」
「サリム…。話がズレた。タパニの話じゃないだろうが。」
サリムの言葉に苦笑いでいると、クレマンがツッコんできた。それに答えるようにサリムは、咳払いをして話を元に戻した。
「あれ、一年がかりで調査した結果、模倣犯が存在することが分かったんだ。でも、こちらが模倣犯を特定するとそれに合わせたかのように、模倣犯が次々に殺害されていって、こちらが出遅れるカタチになった。それは同一犯の犯行で、必ず両目を奪われていた。」
嫌な予感が頭を過ってきた。まさか…。
「クリュエル事件と模倣犯殺害は全部イヴォンの犯行だ。アトゥーの本部がどうやって特定したのか、目的は何だったのかは俺も知らないがな。でも、ここに連れて来られた時のイヴォンは知ってるぜ。」
「それならオレも知ってる。」
サリムの話を遮るように、クレマンが割って入った。
「指揮隊長四人に囲まれて重々しい空気でバタイユのある棟に入って行ったのを見た。あの時はまだあんなに身長なかったな。見かけないうちに180はいったんじゃないか?」
「それは分かんねえけど。まあ、そういう過去のある人だから、あんまり近づくなよ?可愛いタパニに何かあったらと思うと俺は…なあ、タパニ。クレマンより俺とパートナーになろうぜ?」
『話が変わってるよ。サリム。』
「こんな軟派な奴にタパニを任せるくらいなら、イヴォンさんに任せるわ。」
「はぁ?」
『まあまあ、二人とも落ち着いて。…サリム、イヴォンさんについて教えてくれてありがとう!気をつけるよ。』
話終わると丁度よくソワンの指揮隊長がクラスに入ってきた。
僕は頭の隅にイヴォンさんの事を置きつつ、もうあんなすごい人には会わないだろうと思っていた。

✽卒業試験
初めてイヴォンさんに会ってから一年経って、僕はスクールの卒業試験に挑んでいた。
あれから一度もイヴォンさんを見かけていないから、こうして無事にいる。
スクールの卒業試験は顔合わせを含み、三日続く。死と隣り合わせで、毎年死にたくないと途中で断念したり、どこかに逃げる人が出るらしい。
ソワン所属の人たちは戦闘向きではないから、戦えと言われたらそりゃ逃げる。
そのため、ソワンの人たちは戦闘部隊のバタイユの人たちとペアを組む。
ただ相性が鍵を握っていて、喧嘩し始めちゃったり、バタイユの人がソワンの人を見捨てたり…逆もあったりと、卒業できる組は数少ないそうだ。
試験のパートナーは予め配られた紙に書いてある番号と同じ人と組む。
「タパニ、卒業できるように頑張ろうな。そうだ、番号は何だった?」
『誰がパートナーだろうと最後までやるよ。僕は41番。クレマンは?』
「オレは27。」
『そう。この試験さえ突破すれば、アトゥーの本部に就けると思うと断然やる気が出てくるよね!』
僕は目前の試験に夢中だった。
「タパニ…ソワンのパートナーがお前で良かったよ…。」
『え?何?』
クレマンが何かを言ったようだったけれど、聞き返した時には既にバタイユのパートナーの所に移動していなかった。
代わりに僕の側にいたのは、指揮官の一人に連れられたイヴォンさんだった。
『イヴォンさん!?なんでここに?』
びっくりして大きな声を出してしまった。
イヴォンさんは僕の二つ下でまだ卒業試験は受けないはずなのに、なぜかそこにいたからだ。
「その声…ちっこい先輩…?41番はタパニという奴だと聞いたが…そうか。ちっこ…」
『ちっこいを二回も言わなくていいよ!イヴォンさんが41番なの?でもどうしてここに?』
僕の問いかけにイヴォンさんは少し表情を曇らせた。
「あいつらがヤれと言うから…俺は…イッ!」
あいつらというのは指揮官の事なのか本部のことなのか分からないけど、イヴォンさんの本心でここに来てる訳じゃないんだというのは分かった。ただそれ以上話を聞けなかった。
イヴォンさんを連れて来た指揮官が、話の途中で遠慮なくイヴォンさんの脇腹にトネールという電撃を一発撃ち込んだからだ。
「お前は余計な事を言えるような立場の人間じゃないんだよ。何度教えれば覚えるんだ。」
「チッ…俺は…あいつらの忠犬じゃねえんだよ!」
指揮官の胸ぐらを掴んでイヴォンさんは言い返す。そんなことをしたら今度は致死量のトネールを撃ち込まれるのではとか、いざとなったら止めようかとか治療が必要だろうかなど
、僕の頭は一瞬で恐怖と心配と緊張で埋まった。
「だから、お前にチャンスをやっているんだろう。この試験さえ合格すりゃ解放してやると。」
「クソ…こんなちっこい奴連れて戦えると思ってんのかよ…仕組みやがって。敵かどうか見分けなんかつかねえってのに。こいつが死んだら失格なんだろ?」
物騒な事がイヴォンさんの口から次々に出てくる。
僕が死ぬなんて試験が始まる前から言わないでもらいたい。
「死なないように守りながら戦え。敵かどうかはお前の目で確認しろ。」
「はぁ?見えねえつってんだろうが!」
「そうじゃない!お前は今どうやって、私のいる場所を特定した?さっきあいつがタパニという子だと、どうやって分かった?言ってみろ。」
「声と音…。」
「お前には目の代わりをしてくれる耳と瞬発力と技術がある。頑張ってこい。もう痛い事は嫌だろう?」
指揮官がイヴォンさんの頭を撫でながらそう言った。
トネールを放った時は、なんて酷い事をするのかと思ったけれど、この人はイヴォンさんの扱い方をちゃんと知っているし、本当は応援しているんだと、少し安心した。
そのうちイヴォンは落ち着いたようで大人しくなった。
「試験前に驚かせてすまない。タパニ。」
指揮官に急に声をかけられた。
『え!あ、はい…大丈夫ですよ。』
「お前のパートナーのイヴォンは知っていると思うが目が見えない。お前の声次第でこいつは生きる。ただし逆もある。他の組より難しいかもしれない。一つ、お前が死なない為に助言だ。よく聞け。」
『はい!』
「戦闘時のイヴォンの側には絶対に寄るな。寄ってきた奴は全員敵だとこいつは判断する。」
『ですが、それだと僕は…。』
「こいつが死にそうになれば回復させてやればいい。それはどうするかお前らが決めろ。私はこれ以上言えない。まあ、こいつが試験ごときの敵に深手を負わされないだろうが…本部はこいつに優しくない。巻き込んでしまったことに謝罪する。」
半分何を意味しているかよく分からなかったけれど、指揮官
の忠告には従わないと合格の率はいっきに下がるといのは分かった。
『僕たち、必ず合格します!』

✽仕組まれた試験前
「タパニ…。あんたは生きて帰らせてやる。合格、不合格関係なく。必ず。」
二日目、僕が試験内容の書かれた本部からの資料にひと通り目を通して、イヴォンさんに簡潔に伝えるとそう言われた。
どうしてそんなことを言うのだろう?
『僕はソワン所属の人間だよ?大抵の怪我は即治療できる。だから…』
「それは分かってる。…まあいい。今、言ったところで…。」
イヴォンさんが言いたいことを飲み込んで黙ってしまった。
パートナーとの顔合わせから数時間経って、イヴォンさんの様子を伺っていたけど、何度も言いたいことを隠す時がある。
「タパニ。あの指揮官は戦闘時の俺には寄るなと言ったが、それじゃ、あんたが敵に狙われた時助けられない。だから側に居て離れるな。」
『でも敵かどうか分からないってさっき…』
「コルドを使う。あれをお互い手首に縛りつけて戦う。コルドなら、あんたのソワンの力を感じる事ができるし、どこにいるかも把握できる。それに俺が傷ついた時でもそれ経由で回復もできるだろう。」
コルドとは、縄状のバタイユの人たちがよく使うアイテムのことで、お互いの力を把握することができる。
『コルドが切られたらどうする?』
「俺のリアンの能力で強化するから。そういう心配は要らない。俺はさっきの指揮官たちにここに連れて来られた時からいろいろ訓練させられて、あいつみたいなのもできるし、同時にいろいろ発動させることもできる。だから大丈夫。」
『そうか。イヴォンさんは本当にすごいんだね。さすがSSクラスなだけあるな~。』
純粋に思った事を口に出すと、イヴォンは嫌そうな顔をした。何か気に障る事を言ってしまったようだ。
「…そういうことでお前を守ってやる代わりに…俺の目になれ。移動時はお前に従う。あと、いちいち戦場でさん付けで呼ばれるのは嫌だ。イヴォンでいい。」
『分かった。僕がよく見えるイヴォンの目になるよ!』
そう言うと、イヴォンは安心したように表情を緩めた。
『そういえば…僕何も言ってないのに呼び捨てされてる気が…。』
「さんとか、先輩って付けてる間に殺られたらどうする。あと面倒くさいし、俺はあんたより強いからいいかなと。」
『本音出ちゃってるけど?前半で言うの止めてくれたら納得したのに。』

試験開始まであと一時間。準備してたらあっという間にスタートだろう。
『とりあえず、倉庫にコルドを借りに行こうか。』
イヴォンを連れて倉庫に行くと結構な人が来ていた。
『すごい人数…早く取りに行かないとコルドが無くなるかも。僕が借りてくるから、ちょっとここで待ってて。』
イヴォンと歩いててわかった事がある。受験者達がイヴォンに近づかないように避けて歩いている。お陰で歩きやすいけど…傷つくなこれ。イヴォンだって左目はかろうじて見えてるらしいから、人が近寄らないのは分かってると思う。
「タパニ…嫌な予感がする。俺も倉庫内に連れて行け。」
走って行こうとした時にイヴォンが急に手を掴むもんだから、転びかけた。
『うん。いいけど。中はもっと混雑してると思うよ。はぐれないように、このまま行こう。』
イヴォンの手を引いて中に入った。
予想通り混雑していたのにも関わらず、イヴォンが通るとこは人一人分は必ず空間が出来た。
「なんだ…すんなり来れたじゃねえか。」
『あ、ああ。うん。あのさ、イヴォンは全く見えないの?』
「急にどうした?こういう薄暗い所はダメだ。明るければ左目だけぼんやりと見える時がある。でも、痛くなるから使わない」
避けられてる事に気づいてはいないのかな。だったら少し救いかもしれない。
「管理人にコルドがあるか聞いてさっさと出よう。他の準備もしてえからな。」
『そうだね。』
管理人に近づきコルドがまだあるか尋ねてみた。
「ゲッ…イヴォン…君パートナーなの?お気の毒に…えっとね…イヴォンに貸せないんだ。」
「おい!今、なんつった?俺に貸せねえだと?在庫はあるんだろ!貸せ!!」
『イヴォン落ち着いて!管理人に手を出しちゃダメ!』
イヴォンが管理人の胸ぐらを掴む手前で手を止めた。
「と、とにかくイヴォンには貸すなと言われてるんだ。他のものならいくらでも持っていけばいいさ…」
『どうして…。誰にそんな指示を出されたのですか?僕らなにか違反でもしましたか?なにもしてないはずです。イヴォンに貸せないなら、僕に貸してください。』
「誰にって、言えるわけないだろ。それに、パートナーにも貸せない。そもそもソワンの所属だろ?使い方知らないだろ。初心者が試験で使える道具じゃない。似たような…初心者でも使える道具なら貸してやるさ。お前らがはぐれないようにしたいんだろ?だったら、ムノットとかどうだ?」
『どうして、使用目的があなたに分かるの?コルドは本来罪人や敵を縛りつけて身動きできない状態にすることが目的のはず。』
「お、お前が本来の使い方を知ってるなら、管理人の俺が応用を知ってても別におかしくはないだろ。それに、イヴォンの事を考えればどう使うか予想できるだろ。」
「もういい。出るぞ。タパニ。」
『え!?道具はいいの?どうするの!』
「いいから来い!」
イヴォンに腕を掴まれて引っ張られ、管理人と離された。
『わかった。』
何か考えがあるのだろうと思って了承すると、掴んでいた手を離して、急に出口の方に僕を突き飛ばした。
『痛っ!え!?何!?僕なんか気に障る事言った!?』
一瞬、何が起きたか分からなかった。勢いが良すぎて外に出てしまった。
どんだけ力が有り余ってるんだろうかあの人。
立ち上がって、突き飛ばした事に抗議しに中に戻ろうとした時だった。
「うああああああああああああああああああ!!」
あの管理人の悲鳴が聞こえてきた。
その後に次々に別の人の叫び声が僕の耳に届いてきた。
『イヴォン…まさか、暴れてるんじゃ…』
急いで中に入ると、そこにさっきまで立っていたはずの人たちが全員倒れていた。
『なにこれ…大丈夫ですか!?』
一人に近づくとただ気絶してるだけだった。
ただ、それは入り口の人だけで、奥に進むと倒れている人たちの様子は変わった。
だんだんと状態が酷くなっていた。
『駄目だ…この人はもう…なんで。一瞬で何があったの?!』
さっきの管理人のところまで行くと、血を浴びて、雨あがりの蜘蛛の巣のようにキラキラと輝いているように、綺麗な白髪を赤く斑に染めた彼がいた。
『なに…してるの…イヴォン。』
イヴォンはぐったりとして身体の原型を失くした管理人を、何度も何度も蹴りつけていた。
「クソ!クソ!なんでだよ!俺がなんかしたのかよ!答えろよ!俺が!政府に!何したってんだよ!逆だろうが!ぁ゛あ゛ん?俺は!俺は!」
イヴォンの訴える声と一緒に周りから、骨が折れる鈍い音が聞こえてくる。
一人に集中して攻撃してるはずなのにどうして周りから聞こえるんだろうか。
倉庫といっても反響するような場所ではない。
周りに転がっている死体をよく見ると、管理人がやられると同時に同じようなダメージを受けている。
まさか、一人捕らえれば周りの人間も同じく捕らえられ、攻撃を全員受けるんだろうか。だとすれば、ここにいる僕もダメージを受けるはずだが、無傷だ。
「タ…パ…ニ…。」
どこからか僕を呼ぶ声がする。どこだ?
いったん、イヴォンは後にして生きている近くの人を助けよう。
『どこ?もう一度呼んでくれない!?』
「タパニ……。ここ…だ…。」
声のする方に向かうとそこには傷だらけで、倒れているクレマンがいた。
「タパニ…あいつは狂ってる…逃げろ。オレの…二の舞は…嫌だろう?痛いのは嫌い…だろう?」
『クレマン!どうして…ここに。今、助けてあげるからね。ちょっと黙ってて。』
「無駄だ…ここにいる奴らに回復は効かない。オレも試した…が、このザマだ。イヴォンさんの…能力の一つだ…敵全てに回復はさせず…主力以外はじわじわと確実に…死に至る。」
『じゃあ何!?クレマンが死ぬっていうの?なんで!何もしてないじゃないか。ずっと僕とソワンでパートナーとして、SSクラス目指して、本部目指して頑張ってきただけじゃないか!クレマンだってSクラスだ。僕がイヴォンを止めてくる。だから、それまで生きて、待ってて!』
クレマンに簡単な回復だけをして、イヴォンのところへ走った。
『イヴォン!!!』
ビクッと動きを止めて僕の方に顔を向けた。
「タパニか?…なんでここに…なんで。」
どんどんイヴォンの顔が青ざめていく。どうしたのだろうか。さっきまでの威勢はどこに…?
ボトリと管理人の死体を床に落として僕に近づいてきた。
殺られる?
『どうしてこんなことしてるの?関係ない人巻き込んで…イヴォンを慕ってたクレマンまで巻き込んで、命奪って。試験受けに来ただけなのに。ここに道具たまたま借りに来ただけなのに。』
「俺は…俺は…また…」
また?
「俺が守ろうとした人を傷つけられて…それで…同じ目にあわせてやろうと思ったら…いつの間にか俺がみんなを傷つけてる…どうしてなんて俺が聞きたい。また、いっぱい巻き込んだのか?力が異常に消耗してる…。」
『倉庫にいた人たちを巻き込んだよ。三十数名はここにいたはず。もう身体がバラけていて判別できない人もいるけれど。』
「そんなにいたのか?誰にも触れなかったから、いても数名と思っていた…。」
『人数の問題ではないよ。全員味方なんだよ?』
「味方じゃない!それだけは言える…。けど、お前の友人のとこに俺を連れて行け。」
『何するつもり?イヴォンのミュールの力のせいで回復が効かないんだよ!?』
「無関係で俺が巻き込んでしまったやつ、まだ息のあるやつは俺が責任持って助けるから…だから、まずクレマンのところへ俺を連れて行けってんだよ。」
助ける?ソワンの力を持っているっていうの?
イヴォンがどんなにすごい人でも、回復は限られた能力を持った人たちが訓練を積み重ねてできることなのだから、できるはずがない。
「タパニは怪我してないか?」
『ん?…うん。してないけど。』
「そうか。ならいけそうだ。」
イヴォンが何に納得したのかよく分からないけど、連れて行けと言われたし、クレマンのところに導こう。

クレマンのところへ行くと、イヴォンを目の前にしたクレマンは怯えだした。
「タパニ…何考えてるんだ…?この人を連れて来るなんて…。」
『…イヴォン。殺したら承知しないから。』
怯えるクレマンの手にイヴォンの手を触れさせた。
「クレマン。慕ってくれてたんだな。さっきタパニから聞いた。嬉しかったよ。ここには敵しかいないと思ってたから。怖い思いをさせて悪かった。試験受けられる状態にするから。」
喧嘩腰で荒れた姿のイヴォンから、穏やかさを感じられた。
「デザンフェクシオン。」
『それって…!』
イヴォンがソワンの力を使って、クレマンを回復させていく。同時に周りの人間たちも回復していく。
『どうして…バタイユの君がソワンの力を使えるの?しかも同時回復なんて教官レベルだよ。』
「…俺は小さい頃、自分がやられてもすぐ回復して、敵に立ち向かえるように訓練してた。そしたらこれができるようになってた。そのうち、やられる前にやるっていうスタイルに切り替えたから。使わなくなっただけで、できないわけじゃねえ。ただ、これは指揮官には言うなよ。お前が回復させたことにしろ。後から面倒なんだ。せっかく出られるっつーのに逆戻りだ。」
小さい頃って、そんな時からどうして敵、味方なんてあるんだろうか。ただの子どもの喧嘩ならそんな訓練なんて必要ないだろう。だいたい体力に差などあまり無い。大人になっていくにつれて差が出はじめる。たぶんイヴォンが相手にしていたのは大人だ。質が悪い事に特殊能力を有した人たちを…。
普通の子どもが自然に能力に気づくのはマレで、だいたいが周りの大人から感じとる。僕もそう。
父親がスクールの卒業生だったから、その話を聞かされて育って、父親に能力があるなら、子どもである僕にも能力が存在するんじゃないだろうかと、スクールの入学試験を試したら、父親と同じソワンの力が使えた。
入学試験に合格すれば、そのまま入学しようが、普段の生活に戻ろうが、政府はあまり干渉してこない。

死んでいなかった人たちは全て、僕も手伝って回復させることがてきた。
「イヴォンさん。一体何をしたいんですか?傷つけたり、回復させたり…」
『クレマン、問い詰めるのは試験の後にしよう。時間が無い。あと五分だよ。動ける人はさっさともう行っちゃったよ。報告も兼ねてだと思うけど…。』
「でも、タパニ!彼とパートナーなんだろ?殺人鬼と一緒なんて…!」
「クレマン。安心してくれとは言わない。だが、俺はどうなってもタパニは生きた状態で必ずあんたに返す。約束する。」
「生きて戻ってくるなんて当たり前だ!怪我をさせてボロボロだったら俺は…許さない。あなたと殺りあって勝てるはずがないけれど、それでもオレは許さない。無傷でタパニを返せ。先に会場に向かわせてもらう。」
『クレマン…。』
クレマンが見えなくなるまで見送った。僕らも試験会場に向かおうと隣のイヴォンを見上げると、唇を強く噛んでいて血が滴り落ちていた。
『イヴォン…そんなに噛んだら痛いから、やめたほうがいいよ…僕は、さっきかなり力を使ってしまったから傷を塞ぐことがしばらくできないし。』
そんな僕の注意が聞こえていないのか、さらに強く噛んでどんどん血が出てきた。
『イヴォン!ダメだって!聞こえないの!?』
何度注意しても力んでやめない。耳は聴こえているはずなのに、どうして無視をするのか分からない。
ぐいっとイヴォンの手を掴んで引っ張った。
その時妙な感触がした。すぐに手を離して確認すると、強く握りしめられた拳からも血が流れていた。
『イヴォン?なんでそんなに…』
訊き出そうとすると、見上げて見ていた彼の顔が突然目の前から消えた。下を見ると、荒い呼吸で苦しそうに倒れた彼の姿が目に入った。
突然すぎて状況がすぐに理解できなかった。
突っ立ったまま、ただ彼を見ていた。
そんな僕らをいつから見ていたのか知らないけれど、彼をパートナーと顔合わせの時に連れてきた指揮官が駆けつけて来てくれた。
「やっぱりな。暴れると思ったんだ。…タパニだっけ?お前があの中にいた連中回復させたのか?」
『え…あの…えっと…。』
「んな力ある訳ねえか。お前、Sクラスだもんな。こいつが大半だろ?嘘をつかなくていい。俺は知ってるから。…お前、別なバタイユの奴と組み直しだ。それを伝えにきた。」
『よく意味が分かりませんが…。』
「どの辺?全部?まあ、そうだろうな。お前を巻き込んだのだし、知る権利があるだろうから、一度だけ教えてやる。こいつが暴れることは上の連中は想定していた。というか、そうなるように仕組んだ。こいつを縛るために。それと…」
苦しむイヴォンを助ける訳でもなく、ただ淡々と僕に説明してきた。
「こいつの初歩的な攻撃如きで息絶えているような奴らでは本試験なんて死にに行くようなものだ。ここでこいつによって振り分けられたってこと。ただし、これはイヴォンが暴れてくれないとできない。任務だと言って素直に聞き従うような奴でもない。そこで、本部はこいつを卒業試験に出させた。だから、こいつの任務はこれで終わりって訳で、俺はこいつの回収しに来た。早く、試験会場に行きなさい。そろそろ、パートナーの組み直しが始まる。」
指揮官の声を聞きながら、イヴォンの行動を思い出した。
おそらく、彼は途中で気づいたから僕を外に出したのではないかと僕は予想した。
『失礼ながら、発言させていただきます。あなたなら、イヴォンを回復できますよね?僕、彼に言われたんです。生きて帰らせてやるって。試験はこれからなんです。ここで僕が彼から離れれば僕は命を落とすかもしれない。そうなれば…彼の性格を知っているあなたなら分かるはずです。』
指揮官に抱えられたイヴォンが微かに僕の言葉に反応して動いたように見えた。
「こいつにどうせなら本試験を受けさせたいと私も思うが、これは任務だ。勝手な事はできない。それに、こいつによってあんたは元パートナーの命を失いかけたはずだ。そんな奴をあんたは信頼できるっていうのか?」
『元パートナーとも彼は約束したんです。僕を無傷で返すと。他の人と僕がパートナーになればそれは破られてしまいます。どうか、僕を彼の傍にいさせてください。』
「よく分からないな。そんな約束、こいつがただ約束を果たさず終わるだけだ。別にあんたは困らないはずだ。どうして、こいつに拘る?狂犬の世話がしたいのか?狂犬から忠犬にしたいのか?……中途半端な気持ちなら、その脚噛み千切られるぞ。あんたがどうしたいのか興味が出てきた。いいだろう。こいつとパートナーを組んで本試験に挑めるように手配してやる。コルドを貸してやるから持って行け。」
『ありがとうございます!』
「起きろイヴォン!コルドでタパニと繋いでやるから、本試験を受けてこい。私からの任務だ。遂行しろ。」
ゆっくりとイヴォンは体勢を整えて、僕に近づいてきた。
『動ける?』
「身体が妙な音を立てていやがるが、動けないことはない。」
「少し回復を促す薬をイヴォンの体に入れた。時間が経てばさっきのように動けるはずだ。こいつはちゃんと訓練を受けているから、倒れてもそう簡単に死にはしない。…よし。繋げた。時間が無い。急げ。」
「了解した。」
イヴォンの手をとって、試験会場に向かった。

✽傍にいさせて
試験会場では、すでに新たなパートナーがそれぞれ組まれていた。
「ソワン所属のタパニと、バタイユ所属のイヴォンだな。話は聞いている。奥で説明が始まっている。行け。」
すでに会場入りした人たちは、皆青ざめていた。
パートナーを組み直される際に、事の訳を聞かされたのだろう。
試験が始まる前にすでに、 倉庫以外の場所でも振り分けがされていたらしいが、振り分けがされていたなんて誰も知らなかったこと。
その振り分けで死人が出るだなんて予想すらしていない事態だったために、いろいろとショックが重なった。
合格率が低いのはこのせいだろう。
「これから本試験を開始する。今年は、Sクラスの人数がどこも少ないため、クラス混合で行う。パートナーも気遣いつつ、他の仲間も見殺しにはできないという状況になる。
敵は本部が捕まえた、死刑執行が言い渡された凶悪犯達だ。当然能力も有している。それぞれの部屋に数十人いる。敵側には、生きて残れば解放してやると伝えているから、情けは必要ない。絶対に生かすな。生かすことになれば、責任は君たちが取ることになる。それを覚えておけ。本部は甘くない。配られた番号の書かれた扉の前へ移動しろ。」
重々しい空気の中、受験者達は指定された扉の前へと移動していった。当然、僕たちも移動した。
「タパニ、俺たちの向かう部屋には何人くらい味方が入る?」
『それが…他の扉の前には結構な人数がいるんだけど…僕たちの扉の前には、僕たちしかいないんだ…。イヴォンがSSクラスだから、他とのハンデかな?』
「誰もいないだと?そのほうが俺にはヤり易いが、本試験も仕組まれたか…大丈夫だ。必ず生きて帰す。」
本部が味方からの被害を出さないように、特別なのかと考えたけれど、イヴォンがまた仕組まれたと口にするから、疑心暗鬼になりそうだ。
「制限時間は君たちが部屋に全員入って、敵も部屋に入った時点から二十四時間。それ以内に生き残った組が合格となる。扉が開いたら、中へ入れ。扉が閉まると、制限時間が過ぎるまでにどちらか全てが戦闘不能にならない限り開くことはない。覚悟が無い者は今のうちに去れ。説明は以上だ。」
上官の説明にビビって、扉が開く前に本当に去ってしまった
人たちがいた。パートナーの片方が去ってしまった者は棄権された。
これから二十四時間ってことは、夜通しを意味する。
ただでさえ疲労しているのに徹夜はキツイ。
あえてこの状態にしてるのだろうけど、生存率はかなり低いだろう。
「行けるか?」
『え?…行けるよ!だって、イヴォンが守ってくれるんでしょ?それに僕だってSクラスなんだから、見くびってもらっちゃ困るよ。』
目の前の扉が開くと、中にイヴォンを導いた。
二人共中へ入るとすぐに扉が閉まり、凶悪犯達が別の扉から続々と入ってきた。
パッと見るだけでも五十は越える人数だった。これだけの人数を二人で相手しなければならない。
実際やるのはイヴォン一人。少しずつ回復しているとはいえ、力を先に使ってしまっているから、温存しつつ相手にしなくては長続きできそうにない。
「あん?二人だけか?こちらと同じくらいの人数って聞いたが、手違いか?」「別にいいだろう。たった二人なら俺らが生き残って当然だ。いい最期にしてやるよ。兄ちゃん方。」「少しは楽しませてくれたりするのかな?」「無理だろ。片方があんなにちっこいお子様だ。」「女か?」「いや、女はいないはずだぞ?あれでも多分オスだろうさ。」
口々に好き勝手な事を言ってくる。
「飛び級のお子様なんじゃねえの?お守りでも押し付けられたんだろ?なあ、そこの白髪のお兄さんっ!」
一人の男がイヴォンに話し掛けながら、殴りかかってきた。
『イヴォン!』
「うるさい。分かってる。」
イヴォンは男の手を掴んで壁の方へ勢いよく投げ飛ばした。
『ちょっとイヴォン…五十以上いるんだから、最初からガンガン飛ばしてたら疲れちゃうよ。』
「仕方ねえだろ。いっきにやりたくても、さっきので力あんま無えし、一人ずつでも戦闘不能にしねえと、リスクが下がらねえ。あんたもまだ回復してねえんだろ?それまで、俺も回復はできねえって訳だしな。死にたくなきゃごちゃごちゃ言うな。三時間で終わらせる。」
「ごちゃごちゃ言ってるのは兄ちゃんのほうだぜ!俺達相手に三時間で終わらせるだと?あんたらが三時間もかからずに終わるね。」
多数で同時に僕らに襲いかかって来る。
それを僕に攻撃をされないようにしながら、自分も守りながらイヴォンは容赦なく相手をどんどん投げ飛ばしていく。
投げ飛ばすついでに、何か一緒に体に打ち込んでるようだった。睡眠効果のあるものなのか、投げ飛ばされた人たちは仲間に起こされても目を開けず、ただ転がったままにされた。
ショックで死んだわけでもないようだった。
「兄ちゃん…なんなんだ…」「なんで一人でこんなに?おかしいだろ…」「バケモノだ…」
男たちが恐怖に落ち始めた。
半数は戦闘不能にされたのだから、それはそうだろう。
けれど、こちらがまだ不利なことには変わらない。
イヴォンの息が荒くなってきている。
コルドを通して回復をしてあげてはいるけれど、この人数を一人でやるにはそろそろ限界だ。おそらく二時間は経っている。
「タパニ…次で最後の攻撃にする…全員戦闘不能になれば扉は開くと言っていた。俺が…攻撃し終えたらすぐにコルドを切れ。リアンは解いておくからすぐ切れるだろう。そして、入ってきた扉に向かって走れ。いいな。」
早口で耳打ちしてきたイヴォンの声が震えていた。
『切ったら、ちゃんとイヴォンも来るよね?』
「当たり前だろ。扉のところに着いたら叫んでくれ。声のするほうに行くから。だから先に行ってくれ。」
『分かった。』
イヴォンの次の攻撃に備えて、コルドを切れるようにナイフを取り出した。
「お?なんだ?お子さまも参戦するってか?」「だいぶ兄ちゃんお疲れのようだもんな。」
「誰が疲れてるって?まとめて全員俺にかかってきな!タパニに触れる事もできないお前たちなんか、俺一人で十分だ!!!」
「言ってくれるじゃねえか!お望み通り全員で殺ってやらぁあ!!!行くぞ!!」
本当に男たちは動ける者全員で僕たちに攻撃を仕掛けてきた。
ふとイヴォンの顔を見ると、笑っていた。
この状況を楽しんでいるんだろうか?
昔を思い出しているのかもしれない。
「 …シャンデル・ドゥ・グラス…あんたらの終わりだ。」
イヴォンを中心にして、天井のほうから、鋭い氷が男たちを
次々に貫いて、地面に串刺しにしていき、動かなくなった者たちも同様に突き刺さっていった。
全員動かなくなると、イヴォンがコルドを切るように急かした。
『今、やってるよ!……切れた!』
「走れ!!!」
言われるがまま、扉に向って走ると、扉が開いた。
扉の外側に立って、イヴォンを呼ぼうと後ろを向くと、
イヴォンは後ろから、氷で身体を貫かれていた。
『イヴォン!!?』
「ガッハッ…ァ…」
『イヴォン!!』
微かに意識があった男にやられたようで、誰も動く者はいなかった。
急いで、部屋の中に戻ろうとした瞬間、上官に腕を掴まれた。
『え?!』
「合格おめでとう。」
『あ、あの!でもパートナーが!』
「ん?あの子は別にいいんだ。生きててもそうでなくても。君はここに生還した。あの子も扉が開くまでは生きてたから、合格。他の合格者が出るまで、作戦室で待機していろ。」
『あのままイヴォンを置いて行けって言うんですか?!』
「彼は一時的なパートナーだ。割り切れ。いちいち感傷に浸っていては本部でやっていけないぞ。これ以上忠告させないでくれ。君は特別だ。なんせ、たった二人で宣言通り三時間で上官クラスの凶悪犯全員をこの状態にしたんだ。せっかくの逸材を不合格にしたくない。他の部屋の連中は何人も味方がいるのに、君みたいに、パートナーを盾に生き残ろうって奴がいなくてさ。どんどん殺られていく。」
パートナーを盾に…生き残る?
『僕は…そんな…』
「ん?そのくらい生命力に貪欲じゃないとやっていけない。
今年は何人生き残るかな?でも、もったいない事に、生き残って合格しても本部に入隊希望出す人は、一人か二人なんだ。優れた人は強制的だから、入隊者はそれなりなんだが。…分かったら部屋に行け。ちなみに君は後者ね。」
『…人間の命をなんだと思っているんですか?せめて、目の前の味方を助けさせてください。僕はソワン所属です。回復させることが専門です。』
「君さ、彼が何して生きてきたか知って、それを言ってるのか?彼はちょっと前まで逆の立場だった。ここに連れて来られて、生徒たちが試験として彼を殺ろうとした。でも、彼は一人で、ほんの数分で生徒たちを動けない状態にして、圧勝。あまりにも強い力だったから本部は彼を入学させた。本来はあの時で彼は終わってたはず。それが延長されて今日になっただけ。言ってる事が分かるだろ?」
イヴォンが死刑囚だったなんて…。善悪で分けられるとしたら、イヴォンは過去では悪だろう。今も善とは言い難いかもしれない。けれど、本部も善とは言い難いだろう。
『…変わらないじゃないですか?本部も僕らもイヴォンのやってきた事も。』
「君は今、混乱してるだけだ。ほんの数時間共に辛い時を過ごした事によって情があるだけ。現に凶悪犯たちに君は涙を流していない。全く知らない相手で、自分の命を狙ってきた奴らだからな。」
『僕も…』
「黙れ!…この子を部屋に連れて行け。」
上官に指示された二人に僕はその場から離された。

作戦室で待機させられ、制限時間が終わりに近づいていくと合格した二人が入ってきた。
僕のように無傷の者はいなかった。
残り約一時間になった頃、クレマンとそのパートナーが入ってきた。
『クレマン!今、回復させてあげるから!』
「タパニ…良かった。生きてた。怪我ないか?」
『僕は無傷だよ。怪我をしてるのはクレマンのほうだ。』
同時回復はやった事がなかったけれど、イヴォンがやっていたのを思い出しながら見よう見まねで四人を同時に回復させた。
「ありがとう。こんなこといつの間にできるようになったんだ?」
『イヴォンのを真似ただけなんだけど、できた。』
「そういや、あいつは?」
『……扉が開いた後に、微かに息があったやつに殺られた…。無茶だったんだ。一人で僕を守りながら戦うなんて。クレマンとの約束を彼は守ったよ。僕は生きて帰ってきた。でも、どんな人間でも僕は…共に過ごした者なら一緒にここに来たかった。』
クレマンに話をしていると涙が溢れ出てきた。
『最後の一撃に賭けた時、コルドを切ってって言われたんだ…多分ね、イヴォンはもうあの時点で扉の所まで動ける力は無いって分かってたんだと思う…だから、せめて自分が息をしている間に僕が扉の外に行けるように…したんじゃないかなって…ここに来てから気づいたんだ。遅すぎるよね。』
「あいつに謝れないのか…。」
『謝る?』
「でたらめにやってると思ったからオレは怒ったんだ。でも、あいつはあれが任務だからやった事だった。最初から知ってれば…。」
『イヴォンも途中まで任務だって知らなかったらしい。彼はああいう任務は頑なに嫌がってやろうとしないから上が仕組んだ。イヴォンは僕が殺したようなものだよ。本試験には参加しないで済んだかもしれないのに、僕が無理に頼んだ。そしたら、すんなり受けることができた。』
「タパニが殺した訳じゃないよ…本試験にすんなりと進めたのは、最初からやらせるつもりだったからだと思う。全部仕組まれてたんだよ!オレたちは上の連中の掌で踊らされてるだけだ。こんなところにいたらオレたち、命がいくつあっても足りない…逃げよう。」
ただでさえ重い空気がさらに重たくなった。
「な、なあ。クレマン…あのイヴォンが死んだんだろ?SSだぞ。あいつが殺されたってのに、俺達が簡単に逃げられる訳がないよ。Sクラスでもこのザマなんだ。未熟すぎる」
「…なら、ここでくたばってろ。オレは、タパニを連れて逃げる。こんな危険なところにいつまでもこいつをいさせられるかよ!」
怒りと恐怖でみんなおかしくなっていた。
僕も逃げたいと思いつつ、現実はそんな甘くなくて捕まって逃げられないだろうというのが分かって動けなかった。
制限時間もいつの間にか過ぎていた。
部屋にいたのはたったの五人だった。
こちらの部屋に誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
「お迎えか…」
「俺達しか残ってないってことは、強制入隊だな。」
『うん。僕はもう決まってるらしい…。』
「嘘…だろ…。」
絶望が部屋を埋めた。
ゆっくりとドアが開かれ、上官が入ってきた。
「これより、名前を呼ぶ者は合格者として本部へ入隊してもらう。」
部屋にいる五人を見渡して、これだけかとでも言いたげな表情だった。
「 アンリ=ジョルジュ、 ルイ=エクトル、 マテュー=フレデリク、クレマン=シャルル、タパニ=ブローニュ…イヴォン=ユーグ。以上六名。7日後入隊式だ。それまで寮内で傷を癒せ。」
イヴォンの名前が何故か呼ばれた。
「待ってください!今、イヴォンの名があったように思いますが…彼は死んだのでは?ここにはいません。」
上官は妙なものでも見るような表情をした。
「タパニの話だと貫かれたと聞きましたが。」
「面倒な奴らだな。どうしてあいつに拘るのか理解できない。そのタパニにも言ったはずだ。扉が開いた時は息をしていた。動いていた。だから合格だと。もういいか?」
『はい…。』
「解散。好きに時間を過ごせ。」
そういうと上官は出て行った。
各自それぞれ部屋を出ていき、僕とクレマンが残った。
「オレ、あいつの名前呼ばれた時、もしかして生きてるのかって思った。重症でここにいないけど、別なところにいるんじゃないかって。もしかしたら、ドアの向こうにいるんじゃないかって。でも…やっぱり…。」
僕もクレマンと同じ事を、思っていた。
もしかしたら、もしかしたらと。
『ただの悪夢なら良かったのに…入学した時からの長い夢にうなされているだけなら。』
「それならどんなにいいだろうな。…出ようか。今日は真っ直ぐ寮に戻ろう。」
僕がドアを開けようとすると、外側のほうから先に開いた。
「まだいるか?」
その声はイヴォンのだった。
幻聴かと思いつつ、ドアを全開にして確かめた。
『イヴォン!』
目の前にはしっかり立っているイヴォンがいた。
「本物か?」
「その声は…クレマン?生き残ったのか。…約束通り、タパニを無傷であんたに返した。まだ文句あるか?」
この先輩を先輩と思わない生意気具合は本物のイヴォンだ。
『良かった!生きてたんだね!』
「ぁあ?俺を勝手に殺すな。自分の放った力を敵に利用されて死ぬなんてかっこ悪ぃことするかよ。俺はソワンの力も使うことができる。自己回復なんて基礎だ。できて当たり前のことをしない訳がないだろ。」
『良かったぁ!良かったぁ…!』
「おい…。」
イヴォンを抱きしめた。傷がちゃんと塞がっているのが分かる。体温も感じる。ちゃんと鼓動も聞こえる。
「それなら回復に時間がかかって、いままで来れなかったのか?」
『貫通してたもんね。』
「自分の回復にそんな時間はかからなかった。試験会場から出ようと思ったらあのクソ上官に捕まって、まだ生きてる受験生たちを回復させろとか、言いやがってそれを下の学年のやつらとやってたらさすがに疲れて、寝てた。」
「は?」
『そういえば、そういうの昔あったね!』
「待て待て、それって、上官はあなたがソワンを使えるって知ってるってことか?」
「あの人には、同時回復もさせる事ができるって、ここに連れて来られた時からバレてるよ。だから、タパニに回復させる事をしないで、俺を放置して勝手に出てくるのを待ったんだろうな。ここは趣味の悪いおっさんばかりだ。あの頃にいた連中と変わらねえ…。」
イヴォンは悲しそうな表情で遠くを見ているようだった。
『あ、これから、寮に戻るところなんだけど、イヴォンはどうするの?』
「お前ら律儀に従うのか。7日後、大人しく本部に入隊するのかよ。俺はもうここに繋がれて、決められた範囲しか動けない犬の生活は嫌だな。」
確かに僕らは政府の飼い犬みたいな扱いだ。
『じゃあ、どこに行くって言うの?』
「俺の昔いた、外に行く。一度飼われた犬が、また野良に戻ったら、死にに行くような事かもしれねえけど。悪徳業者に虐待されながら売られる飼い犬やってるより、野良のほうがよっぽどいい。どうせ飼われるなら優しい人に拾われたかったな。まあ、普通は狂犬拾おうなんて考えねえよな。俺ならもっと大人しいやつ拾うわ。」
イヴォンぐらいの力がある人なら、どこで行ってもやっていけるんだろうなと思った。僕も彼のように強ければ、逃げようと思った時に逃げられたのかもしれない。
「なあ、タパニ。一緒にここから出ないか?俺はこの試験が終わればここから解放してもらえる事になっていたんだが、どうもその気がないらしい。でも、俺はこれ以上ここにいるつもりはねえし、タパニにだったら飼われたい。もう少しの間だけでもいいから、お前の傍にいさせてくれないか。」
「なんで妙に告白ちっくなんだ…。でも、タパニをここから出してくれる人がイヴォンさんなら、どうか外に連れ出してやってほしい。あんな酷い密室からタパニを無傷で返してくれた男なら、きっと外に出してくれるだろうし、最後まで守ってくれそうだ。タパニには忠犬みたいだしな。」
『クレマンはどうするの?』
「オレが一緒に行ってどうするんだよ。上官達を少しの時間でも足止めする奴が残ってないとまずいだろう。」
『…イヴォンなら足手まといが二人くらい大丈夫だよね?』
「ああ。問題ない。」
『ほら、イヴォンだってこう言ってるし、逃げるなら三人で行こうよ!』
「ダメだよ。タパニ。きっと本部はいなくなった人を探し続けると思う。だから、内部から混乱させたほうが確実だよ。
オレは、政府の言いなりにはならない。それに、オレはタパニが元気でいてくれればそれでいい。オレもタパニの忠犬なんだ。忠犬の生涯を全うさせてくれないか?」
クレマンはここに来た時からずっと僕を守ってくれていた。僕は彼になにもしてあげることができていないのに。
「彼の言う通りにしてあげないか?」
『でも、僕…そこまでしてもらうほど何もしてないよ…。』
「してくれたよ。世話好きな俺を、お節介で面倒な奴とは思わないで、ずっと傍にいてくれた。それだけでオレは嬉しい。だから最後までオレに世話をさせてくれないか。」
『分かった。クレマンがそういうなら僕は、イヴォンと一緒に行く。約束したし…目になるって。』
「行くなら来い。早いほうがいい。」
『うん。…行ってきます。』
「行ってらっしゃい。」

用語解説とあとがき


タグ:創作小説
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