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No name [小説]


No Nameは、そのまま「名前が無い」という意味だ。
俺の住んでいる国には、国はもちろん町にも人にも、名前というものが存在しない。
その代わり、Numberがある。一つひとつ、一人ひとり…固有の数字があてられている。
ただ、食べ物や物には名前があった。
国のNumberは「000000」(ゼロシックス)ここから数字は増えていく。
同じNumberは使う事も、名乗る事もできないシステムになっている。
俺のNumberは無い。というより、無くなったのだ。元はNo.015862。
本来、Numberが無くなる事は有り得ない。国民にとって、Numberは名前だからだ。
俺のNumberが、無くなったのは生まれてすぐらしい。
無くなった原因は双子の弟と自身の身体。
Numberは人の場合、十歳まで生きられると保証がある者のみ。
俺はNo.015862として産まれたが、泣き声が弱々しく、心臓の動きも鈍かった。
だが弟は力強く泣き、健康そのものだった。No.015862は、弟のNumberになった。そう、俺は命の保証がされなかったのだ。
だが、俺は今十八歳。基準の八歳以上生きてしまった。
逆に、弟は十歳になる前に亡くなった。
この国のシステムを知らない外国人は俺に、
「弟のNumberを取り返せばいいじゃないか。十歳になってなかったし、居ないのだから」
....と言う。でもそれはできない。
十歳まで生きられなかったとしても、一度保証され与えられたNumberは、その人のもの。身内であっても、名乗ることは許されない。

俺は同じくNumberが無い人が、この国にどのくらいいるのか知りたいと思い、旅をしている。
そんな事をして、どうするつもりかと聞かれた事がある。でも、その質問にはっきりとした答えを今までに返せていない。俺も分からないのだ。見つけたところでどうしたいのかなんて…国に訴えるつもりも無いし、同情を求めているのでも無い…ただ単に、見つけたいってだけの軽い気持ちでも無いのだ。
そんな俺に通り名がいつの間にか付いた。
「NoNameーNoNumber」
Numberも、もちろんNameも無い。だから、ノーネーム・ノーナンバーらしい。でも、それだと長いと、多くの人達は「NoName」と言っていた。
行く町毎に、町民からそう呼ばれ、
「NoNameはこの町にはいない。次にさっさと行ってくれ」
と言われる。
どうやら俺は、招かざる客らしく捜すに捜せない。
何故なのかは、快く家に泊めてくれた老夫婦が教えてくれた。
『俺なんかを泊めて、大丈夫ですか?NoNameの噂は聞いているでしょうに。』
「若人よ。ワシ達の事は気にしないでください。噂は噂です。真実かは、わかりません。」
老夫婦は、噂に頼らない方で真実は自分の体で確かめるそうだ。
『あの…実は俺、噂の内容は知らないのです。ただ、嫌われ者だという事は、感じられます。』
「内容を知りたいのですか?」
老夫婦は、細かいところまで教えてくれた。
その噂は、俺と同じく名前もNumberも無い旅人と俺がごちゃごちゃになって伝わっていたのだ。俺はそこで、この国に名前もNumberも無い人がいると知り、嬉しかったのだが、気に入らないところもあった。
もう一人のNoNameは、Numberを持たない人を見つけるためには手段を選ばず旅をし、町を荒らし回るそうだ。
いったい、荒らしてまで捜してどうしたいのだろうか?
『もう一人のNoNameはこの町には、来ていませんよね。』
「ああ。もしや、若人よ。待ち伏せし、会うつもりか!」
『俺は会って話しがしたいのです。』
この町で少し留まっていれば、もしかしたら会える可能性があると、俺は考えた。
「それは、止めたほうがいい。....自らNoNameと名乗るのも、控えたほうがいい。」
もう一人のNoNameは危険な人なのは分かっているが、荒らすのを止めさせるためにも一度会いたいのだ。
「気性の荒いNoNameは、国に追われている身だ。」
『手配中か…だが、NoNameを生んだのは、元をたどれば国ではないか!』
声を荒げるつもりは無かったが、つい感情をぶつけてしまった。
「今日はもう休んで、明日また考えてはどうですか?」
『取り乱して申し訳ありません…。今日はそうさせてもらいます…。』
俺は老夫婦が用意してくれた部屋で休ませてもらった。

明け方、町が妙に騒がしいので目が覚め、上着を着て老夫婦を起こさぬよう家を出てみた。すると、道の中央で大人に囲まれた二人の子供を見つけた。
寄って行ってみると、俺を避けるように大人達は道を開けたため、スムーズに子供達に近づけた。その場は一気に静まり返った。今まで騒いでいた大人達は俺と子供達を物珍し気に見ていた。
子供の一人は酷く怯え、今にも泣き出しそうだ。
もう一人は、その子を庇うかのように前に立ち、俺を睨み、右手を突き出して威嚇していた。
『俺は別に危害を加えるつもりは無いんだが。その手は何だ。俺は何もしてないぞ。』
睨んだままの子供は口を動かした。
「あんた…NoName?荒らしのNoNameか?」
『確かに、俺はNoNameーNoNumberだが、荒らし回る事はしていない。逆に俺はそいつに会い、荒らし行為を止めさせたいと思っている。』
「…お兄さんも、旅してる?」
怯えたほうの子供が聞いてきた。『ああ。NoNumberの人が他にいないか捜しながらな。お前達も旅を?』
「そうだ。僕達もNoNumberの人を捜しながら旅してるんだ。」
「僕達もNoNameーNoNumberだから…。お兄さん、仲間だね。」
『っ!!』
こんな小さい子供までがNoNameとは…見た目は十歳くらいだ。同じ顔してるし、双子だろうか?しかし、危険だ。さっきも大人達に囲まれていたし…今後旅を続けるのは、この子供達には厳しいだろう。荒らしのNoNameに見つかっても危険だろう…。
『ちょっと来い。』
二人の手を引き、俺は歩き出した。大人達は目で追っていた。
「何だよ!どこ行くんだよ!離せよ!」
「お兄さん!?僕達をどこに連れてくの?売るの?」
『人聞き悪い事言わないでくれるか?』
売るって…そんな事する訳がない。きっと、この子達も経験があるのだろう。
「じゃあ、どこ連れてくんだよ!」
『まだ早いんだ、静かにしてくれ。とりあえず、俺が泊まってる家に行く。
そしたら、朝飯をもらおう。』
老夫婦の家に着く前に、旦那に会った。
『明け方に、外に出てどうしたのです?』
「おお…若人よ。無事だったか!」
俺は黙って出て来た事を思い出した。
『旦那、俺なんか心配しなくても…本当に出る時は挨拶しますから。
それより、この子達に何か食べ物をくれませんか?』
「おお…なんと。さあ、入りなさい。好きなものはあげられんかもしれないが、腹の足しにはなるものをあげよう。」
中では、奥さんが心配そうに待っていた。俺の顔を見ると泣きながら抱きしめられた。
『ご心配をおかけいたしました。』
「今日の朝は賑やかになるぞ。若人が子供を連れて来たのだ。」
「これは、これは。いらっしゃい。ご飯はまだ?沢山作るから待っていておくれ。」
『俺のは気にせず。この子達に。』
「駄目ですよ。旅人さん、ちゃんと食べなくては。」
『あっ…はい。…そうだ、旦那!』
「どうしたのです?」
『ちょっと話しが。』
俺と旦那と子供達が居間に集まった。
『この子達も、俺と同じNoNameらしいのです。嘘でなければ。』
子供達を見ると、兄と思われるほうに、遠慮無く睨まれた。
『睨むなよ…小さいくせに。』
今度は、一発蹴られた。
「01…お、お兄ちゃん!蹴っちゃ駄目だよ…」
やっぱり、目つき悪いのが兄か。弟は相変わらず、怯えているようだ。兄の上着の裾をぎゅっと掴んで、離そうとしない。
「でも、こいつ…自分だってNoNameのくせに…!!」
『落ち着け。』
「若人よ。この子供達をどうするつもりか。」
『見ての通り、二人だけで旅をしてるそうなんだが、危険過ぎると…』
「お前さんだって、若いではないか。しかも一人で旅を…」
『俺は!…』
記憶が少し蘇った。俺もこのくらいで弟と旅に出たのだ。
家計が苦しく、親に見放された俺に無言で付いて来てしまった弟を家に帰してやる事ができず、生きるためにも旅をした。
そうだ、俺がNoNameを捜し始めたのはこの頃だ。同じ境遇であれば、二人とも助けてくれるのではないかと、そう思っていたのだった。弟は、いくつか町を過ぎる度、体が弱い俺を庇うため自分の体が病にかかった事を隠したために弱っていき、十歳になる前に死んだのだ。
『俺は、生かされてる。旅は続ける。だが、この子達の旅は止めさせたいのです。』
「そうか…。」
「ちょっと待て!勝手なこと言うなよ!僕達だって…」 「015…お兄ちゃん…。」
『死にたくは無いだろ。NoNameに会えたって、命の保証はされないんだよ…。』
「ワシ達が、面倒を見よう。」
『すまない....。そういう事だ。二人は、ここでしばらく世話になれ。』
「嫌だ!!黙ってちゃ、兄ちゃんのNumberはいつまで経っても!!」
兄のほうが、弟を指を指して、兄ちゃんって…本当は逆なのか?
「015862!!あっ…!」
『何!?』
まさか、こいつら…
『お前、本当に015862なのか?』
「えっ!?あっわっ…」
『正直に答えてくれ。二人は双子で、本当はこっちの目つき悪いのが弟で、No.015862。んで、怯えてるのだけがNoNameか?』
「お前、何者だ?!何で…」
「何で、お兄さん…知ってるの?」
この反応は、本当だろう。しかし、こんな事…昔の俺と弟だなんて事が。
『今、何歳だ?』
「「…七歳…」」
あと二年…。
『No.015862。調子悪いとこ無いか?』
「だから、何なんだよ!!」
警戒させてしまった。警戒心を解くためにも、やっぱり話したほうがいいだろう…。
『俺にも双子の弟がいたんだ。死んでしまったけど…。』
これは言わなくて良かったか。
『俺にNumberは無いが、弟にはあった。そのNumberは015862。』
「若人よ。まさか、この二人が昔のお前とは言わんよの?」
俺も子供達も黙り込んだ。
そんな時、奥さんが料理を持って入ってきた。
「話しはまとまりましたか?」
「いや、時空間を越えたよ。」
「え?」
旦那…それだけだと伝わりませんよ?いや、もともと伝わりにくい話しなんだが…。
「なあ、俺死ぬのか?どうやって死ぬんだ?兄ちゃんは、発作とか起きなくなるのか?
一人で寂しい思いをしないで…兄ちゃんは....」
弟が必死になっているのを見てると、思わず抱きしめた。
『大丈夫…大丈夫。俺の体は心配しなくても、この通り生きてる。でも、病を隠してまで俺を庇わないでくれ。あの頃の俺は気弱で何も言えなかったけど…自分を犠牲にしてまで庇われるのは、見てて辛いんだ。自分を大切にしてくれ!長生きしてくれ!寂しいよ…。いなくならないで…お願いだ!!』
双子も俺も泣いていた。
だが、双子は今にも消えてしまいそうに、見たことの無い光に包まれていた。すると昔の俺は、瞬いた瞬間本当に消えてしまった。
弟のほうに視線を戻すと、俺くらいの歳に成長した姿があった。
『えっ?』
「有り難う。ごめんな。兄ちゃんをずっと守っていたかった…。嬉しかった。」
そういうと、弟も瞬き消えてしまった。
『行かないで…一人にしないで…寂しいって言ったのに!なんで…置いて行くんだよ!』
老夫婦が、泣き狂う俺を抱きしめた。
「弟さんは、本当に死んだのかい?」
『何言ってるんです?』
VirtualWorld.」
バーチャルワールド?旦那は何を言ってるんだ?
老夫婦は俺から離れて、説明してくれた。
「この町の別名だよ。」
『バーチャルワールドって言うのか?』
「ああ。この町の住人は、半分がコンピューターで作られてる。
しかし、別な所で生きている者がVirtual化する。」
Virtualは仮想…その人がいたら、ここではこんな暮らしをしているだろうというものらしい。
「まあ、ごくたまに思いが強い人が来ると、その思いが実質的なものになるらしいが。」
『では、もしかすると弟は生きている可能性があるが、俺の思念が強くてVirtualとして、現れただけと…。』
俺の旅する目的が増えた。NoName捜しと、生きているかもしれない弟捜しだ。
用意してくれた朝飯を食べ、老夫婦にお礼を言い、
「000017」・VirtualーWorldを出発した。
次の町、「000024」を目指し歩いた。

次の町までは、地図で見ると結構遠い。着くまでは町と町を結ぶ道を進むしかない。その道には何も無い。木も草花も生き物も、人すらあまり通らないのだ。
唯一その道を通るのは、迷子か旅人のみ。他の人やモノの移動は、別なルートでされる。
何も無い空間をただ今日どうするかだけ考えて歩いていると、遠くに人影が見えた。
影の形で姿を確認する限り、迷子ではなさそうだ。
結構しっかりした装備で足取りも軽く、目的地に向かっているようでこちらを襲ってくる様子も無い。
『気にする事は無いな。』
俺は地図を見ながら歩いた。
『次には、二日くらいで着くだろう。』
地図を仕舞い、前を見ると目の前に人が立っていた。
『うわっ!!』
思わず声をあげ、後ずさりしてしまった。相手はフードを深くかぶっていて、口しか見えず、不気味な笑みを浮かべていた。


何も無い道で俺の大分前を歩いていたはずの旅人が、地図から前に視線を戻した瞬間、目の前で不気味な笑みを浮かべ立っていた。
『何用だ?』
旅人は不気味な笑みを浮かべたまま、何も答えない。
『何が目的だ?金めのモノは、生憎持っていないぞ。』
旅人は、答える代わりにフードを脱いだ。前髪が長く片目しか俺には見えないが、恐ろしく感じた。
瞳の色がどす黒く、光りが全く無い。
『人間か?』
「フフフ…失礼ですね。俺は人ですよ。あなたと同じ。」
どこが同じだ?一緒にされたくは無い。こんな邪気の塊みたいな奴と。
やっと口を開いた旅人は、どうやら人であれば、男性のようだ。
顔は女性のようだが、声が低くどすが利いていた。
「元No.015862で、今はNoNameのあなたと同じと言ったのです。
聞こえましたか?フフフ…」
『なんでそれを!?』
「今言いましたが?」
訳が分からない。いったいどういう事だ?まさか、Virtual!?
「言っておきますが、俺はVirtualなんかじゃありませんよ。加えて、あなたがVirtualWorldで会った、弟は死んでおりません。」
『だから、何で俺の事知ってるんだ!?見てたのか?』
「知ってるんですよ。」
俺を知ってるだと?そんなの、弟ぐらいしか…
「俺は、あなたですから。」
『俺…だと…』
「はい。先程からそう言ってるじゃないですか。」
同じって、同一人物って意味なのか…。
「それとアドバイスをしておきましょう。
そんな、NoNameの捜し方では温いですよ。」
温い…まさか…
『お前が荒らしのNoNameか?』
「俺は荒らしているつもりは無いんですがね。」
『町を荒らしてまでNoNameを捜すのに、何か目的があるのか?』
「弟の為ですよ。」
そういうと、いきなり左手を突き出してきた。ぎりぎりで避けると、その手には短剣が握られていた。刺すつもりだったのか!
「世の中に、俺二人は要りません。消えてもらえませんか?」
俺だって、二人は要らないよ。だからって俺を消す事無いだろう。
だが、抵抗しようにも短剣なんか持っていないうえに護身術しか知らないし、限界がある。
それを知りながら、攻撃してきたのだろう。
『ちょっと待て。』
俺はバックから、老夫婦が持たせてくれた昼飯を出した。
「何をしている!?」
『昼飯出してる。』
「それは、見れば分かる!死ぬ気か?最期の晩餐的なあれか?」
もう一人の俺が、動揺してる。
『縁起悪い事言うなよ。腹が減っては戦は云々って、どっかで聞いた事無いか?
ちょうど、この時間腹減ってんだよ。』
「己の命より飯か!」
『腹減ってないのか?そんな殺気に満ちて血走ってるけど。』
さっきから気になるんだが、影じゃ充装備に見えたが、実際は旅をするような格好をしていない。俺が今短剣を持っていたら、真っ先に腹を狙うだろう。
装備が全くされておらず、がら空きなのだ。
『死にそうだな。』
「腹が減ってか?」
『違います。』
脚に短剣を仕舞い込んでいたようだが、まだ武器を持っていそうだ。脚に装備する前に、服装を変えろと言いたい…首は流石に守っているが、他の部位が弱すぎる。よっぽど、腕に自信があるのだろうか。
『って事で、いただきます。』
「なっ!」
『食いたいの?美味そうだもんな。実際美味いし。』
注意を反らす事ができれば、俺から何かしら攻撃できるはずだ。
(ギュルル~)
『えっ?』
「あっ!」
やっぱ空いてたんだ。まだまだ育ち盛りなんだな。何歳か知らないけど。
『自分の無いの?』
「……。」
無いんだな。
『やろうか?毒入れて。』
毒なんて無いけど。
「毒入ってでもいい。」
いいのか?死にますよ?
『じゃあ、残ったのやるよ。』
俺の嫌いなものしか無いがな。
「これは嫌がらせですか?食べれなくはないのでいいですけど。」
やっぱりいいんだ。
『なあ、何歳なんだ?』
「はひ?」
いや、口に入ってるモノ食べきってからで大丈夫だから。
「んぐっ。二十四。」
六年の間に、何があってこんなんになるんだ?退化してるように見えるんだが。
『そうか。』
「それがどうしたんです?」
『思うんだが、俺が消えたら自身も消えるんじゃないか?』
「知らん。」
そんな!ちゃんと調べてから行動しろよ。もう一人の俺。
「知らないが、王が消せと言うからこんな危ないもの持ってだな…使い方知らないのに…。」
教わってから来いよ。
ああ、だから短剣を左手で持ってたのか。
左足に装備していたら、右手で出すのが普通だと思うんだが…
「ちなみにさっきは咄嗟だったから左手だっただけだからな。」
読まれてるのか?
『王は俺を消したいんじゃなく、俺という存在そのものも消したいんじゃないか?』
「なひ?」
だから、食べ終わってから話そうか。
『王は、俺とお前。両方とも消したいんじゃないかって事。』
「なんひゃりょ!?」
もう、いいや。
『王はどんな奴なんだ?』
「ん~キラキラしてる。」
何が?オーラ的な?
「あと、髪形は弟に似てるけど、性格は真逆ですね。」
ですねって言われても、俺はそんな事を聞きたいんじゃ無いんですよ。
「あとは~弟に弱い。」
『弟いるの?知ら…』
「いや、俺の。」
言葉足りないんだよ!
『王の傍に弟が何でいるんだ?』
「俺の為なんだってさ。」
『意味が分からない…。』
俺の為って何なんだ…俺を消す事が俺の…?ますます分からん。
「ふ~食った食った。さて、やりますか。」
殺りますかって、そんな軽く言うなよ。
『俺、武器無いんだが…。』
「ん~じゃあ、死んだふりでいいよ。
あっ。でも、ここからだと遠いから…近くになったら死んでくれる?」
意味がホントに分からん!!
「王宮に入ったらでいいよ。運ぶの疲れるから。」
『事情が分からないし、死ぬのもふりも御免被る。』
「何で?」
『はー。自由に生きてますね。』
「そんな事無いですよ~。こう見えて俺だって必死に生きています。」
自覚あるんじゃないか。
「まあ、とにかく。早い話しが、王宮に来いって事です。」
勝手に話し進め始めた…。
『何しに行くんですか?』
「王に報告する。そしたら、弟返してくれるんです。」
捕まっているのか?
『何歳の弟を?』
「十八歳のです。今返してもらわないと、意味が無いんですから。」
『は?』
話しが全く見えて来ない。
「時間が無いので、さっさと行きましょう。」
もう一人の俺は、空気を切るように短剣を振った。すると、何も無い空間に扉のようなものが出てきた。
「ここ通ったら、すぐ王宮だから死んだふりしてください。」
『しません。』
「殺さないでいてあげているんですけど…まあ、あんまり往生際悪いと、俺も容赦しませんから。そのつもりで。フフフ…」
もう一人の俺はフードを深く被り、不気味な笑みを浮かべ俺の手を引き、扉の奥へ連れ込んだ。
人格ががらりと変わるせいなのか、恐ろしく感じた。
しばらく暗い道を歩いていると、入ったときとは違う扉が現れた。これを開くと王宮があるのか。
「それじゃあ、死んでください。」
短剣を俺の喉に突き出した。
『断る。』
「まだ、そんな事言うんですか。俺もあまり手荒な真似はしたく無いんですよ。
いい加減分かってください。」
十分手荒なんだが…。
「はー。仕方ありませんね。」
もう一人の俺は、短剣を仕舞った。諦めたのだろうか?
「力抜いてくださいね。」
『は?…うっ!!』
何が起こったんだ?意識が遠退いていく…俺としたことが……
「重そうだな…引きずったら駄目ですかね?弟に怒られますね。」


目が覚めると、豪華絢爛な部屋で寝かされていた。
『俺は…』
「やっと起きましたか。」
体を起こし、声がしたほうに目をやると、
頭の装飾とイヤリングがキラキラと輝いている若い男が立っていた。
隣には俺と同じ顔をした目つきの悪い男がいた。もう一人の俺はどこだ?
「この男があなたのお兄様ですか?No.015862。」
「はい。」
キラキラの隣は弟か。
「兄ちゃん、ごめんね。俺、死に損ねた。」
何言ってんだ?生きているんだから、いいじゃないか。
「俺が死んだら、兄ちゃんにNumberをあげてもいいって、
王が言ったんだけど、毎回死ねないんだ。あいつに邪魔されるんだ。」
『何言ってんだよ。俺は弟が死んでまで、Numberなんか欲しくない。邪魔されて良かったんだよ。』
「生きてても、邪魔なんだよ。こいつ。」
部屋の扉が開き、連れて来られたのはもう一人の俺だった。すごくぐったりしていた。
『何したんだ?』
「何もしていません。」
じゃあ何で、今にも死にそうになってんだよ。
「時空間を越えて動いてるから、酷く疲れるらしいんです。」
『そうなんですか。それで....俺は何の為に連れて来られたんですか?』
「聞いていないんですか?弟様が会いたいとおっしゃったので、自分の過去なら分かるだろうと、時空間を移動して未来のあなたに捜して連れて来てもらったのです。」
やっぱり、もう一人の俺言葉足りて無かったぞ…。
『あの、俺。俺に短剣でやられそうになったんですけど…』
「彼の持ってる短剣は、人を傷付けられないと、自分で言ってましたが。」
何!?俺はまんまと脅しに引っ掛かったって事か?
「いやだな~。俺が人を傷付けるような武器を持ってると思ったんですか?」
俺自身に言われると、腹立つな。
いや待て、確か最初俺を消そうとしなかったか?
「彼、最初あなたを襲って来ませんでした?」
『来ましたけど…。』
「すいません。行かせる前に食事を取らないまま出て行ってしまって、
他の町も大分荒らし回って…私がきちんとした王であれば、もう少し…。」
このキラキラした人が王なのか…って、未来の俺は犬扱いか!?餌与えて無くて本能のまま行動しちゃって~みたいな弁解だったぞ。
「ねーねー。俺、腹減って死にそうなんですけど王様~。」
未来の俺、王様ナメすぎだ!!
「任務は果たしていただきましたし、お腹いっぱい食べたら帰っていいですよ。」
飽きられてんじゃないか!
「では、ごゆっくり二人で話してください。我々は出ますから。」
『あっはい。未来の俺をよろしくお願いします。』
部屋には弟と俺しかいなくなった。
「兄ちゃん!!会いたかった!」
『俺もだ。てっきり、病で亡くしたと思っていたが…こんなに嬉しい事は無い。』
「俺、王に助けられたんだ。おかげで病も完治した。」
『そうか。良かった…。』
「仲良くなったから、兄ちゃんの事を話したんだ。それで俺が死ぬ代わり、兄ちゃんにNumberをあげてもいいようにしてくれって頼んだんだ。」
『馬鹿かお前…。』
思わず口から出てしまった…。
「……。」
『助けてもらった命を捨てるなよ!俺は別にNumberが欲しくて、旅を始めた訳じゃないんだよ。お前と生きていくために、始めたんだよ。それを…生きられるだけ生きろ。自ら終止符を打つな。行くぞ!』
弟の手を引き、部屋を出た。
「兄ちゃん…。」


少し歩いた所に、未来の俺と王がいた。未来の俺は、短剣を取り出し空を斬った。すると扉が現れた。帰るのかと思った瞬間、自身の腹に短剣を突き刺した。
『何してんだよ!!』
隣にいた王が驚いて、棒立ちになった。
「変わっちゃいました…。これでは、帰れません。」
変わった?未来の事だろうか。だからって…
「最期に美味いモノ食べれましたし、弟に会えたから、悔いはありません。」
未来の俺は、さらに短剣を奥に突き刺した。
『止めろ!!』
俺は俺の所に着くと、血に染まった手をそれ以上刺さないように止めた。俺の手まで血に染まっていく。
「生きられないんですよ。どっちにしろ。俺…本当は二十歳で死んでました…。」
未来の俺は、その光の無い瞳で王を見ていた。
『死んでたって何だよ。』
「未来の私と過去の私のせいです。申し訳ございません。」
我に返った王が謝ってる…俺には何が何だか分からない。
『俺には、分からないが自ら命を絶つ事無いだろ!旅をして、何を学んで来たんだよ!』
「…温いって言ったじゃないですか。最期に過去の俺にアドバイスです…逃げて…。
弟の手を決して離さないでください…俺の息の音が消えてから、三十秒以内に王宮を…出な…さい…」
『おいっ!』
未来の俺は、やり遂げた顔で息絶えた。本当に死ぬとは…
「兄ちゃん!!」
弟の呼ぶ声で周りを見渡すと、いつの間にか兵に囲まれていた。咄嗟に息絶えた俺から離れ、体勢を整えて弟の手を強く握り、未来の俺の腹に刺さった短剣を抜き取り、兵と兵の間が少し空いている所から脱出した。
屋敷の出口まで走り抜け、王宮の敷地内からの脱出も成功した。
『あの王は、何を考えているんだ?』
「兄ちゃんを消したいみたいだ。国はNoNameの事を知られたく無いんだ。俺の病を治したのは、兄ちゃんがどこにいるのかを吐かせるためだったんだ。」
NoNameを知られたく無い…本当にそれだけなんだろうか?
『No.015862、服を全部捨てて俺のを着たほうがいい。追跡されては、意味が無いからな。』


王宮から脱出し、弟を俺の服に着替えさせた。
周りに兵士が居ない事を確認し、地図を広げ場所を確認した。
『まだ、王宮に近いな…。』
「その短剣って、王にもらった物なのか?」
『いや、貰ったとは言ってなかった…』
どうしてだろうか。王と未来の俺の言動が妙に引っ掛かる。
「どうした?」
『王以外に、俺らを狙ってる奴がいる気がするんだ。』
未来の俺は最初会った時、俺を消したがっていた。
しかし、王宮では穏やかで王と気さくに話していた。
俺を消そうなんて事もしなかった。
王は過去と未来の自分が悪かったと謝りながら、短剣を突き刺した未来の俺の姿を見ながら泣いていた。
詳しくは分からないが、今現在の王と未来の俺は仲が良く、命を狙い合うような関係では無かっただろう。
しかし、未来の王と未来の俺は何らかの理由で仲が悪く、互いの命が消えればいいと願っている…もしくは、過去の王と未来の俺の仲が悪いのかもしれない。それが無いとしたら、王の背後に王よりも、強い権利をもった何者かが未来の俺と拘わりがあるのかもしれない。
『この短剣…』
短剣を見ると、刃が血で染まったままだった。正確に言うと、血のような液体で染まっていた。
「兄ちゃん、これ何だ?血だろうけど、そうは見えないぞ。それに、時間が経ってるのに固まってない…でも、液体のまま短剣に付いてる。普通なら、流れていくんじゃないか?」
短剣を傾けたり、振ってみたりしていたのだが、流れ落ちる気配が全くない。
『未来の俺は人か?』
未来の俺に対して最初に抱いた疑問が、沸き上がった。
『そういや…瞳が光を全く写していなかったな。どす黒い瞳と不気味な笑み…』
「未来の兄ちゃんは、怖かった。」
弟にまで恐怖を…俺に何があってそんな…
「未来の兄ちゃん、血色悪かったし瞳は濁ってて、会話してるのにキョロキョロしてた。時々、不気味な笑みで意味深な事言うし…」
そうか…光を写さないんじゃなく、瞳は濁ってたんだ。
『見えてなかったんだ!』
「えっ何が?」
『未来の俺は、目が見えてないって事だ。最期に時空間の扉を出したのは帰るためじゃない。腹に深く突き刺す為のものだったんだ。』
「でも…見えてないのに、どうやって兄ちゃんの事見つけたんだ?」
『耳と記憶と情報だろう。派手に町を荒らしたのは、俺にも情報が流れるようにやったとすればいろいろ繋がってくる。』
後の謎は、本来二十歳で死んでいるはずだったって事とこの血だ。
「この血、べっとりしてる…。」
『何触ってるんだ!?変な病にでもかかってたらどうする!』
俺は弟がこれ以上触らないよう、草むらに置いた。すると、置いた場所から徐々に草が枯れていった。
『もはや人の血ではないな。』
不気味な液体は、草をどんどん枯らしていった。
『自身の身体と短剣はボロボロにならないのだな…。』
「兄ちゃん、手!!」
『えっ?』
自分の右手を見ると、血のような液体で染まっていた。
「さっき、未来の兄ちゃんの手を抑えていたからだ。」
いや、違う。確かに抑えていたが、両手だったし、兵士に囲まれて弟の手を掴む前に、咄嗟に服で拭き取ったのだ。
『ナイフか何か持ってるか?』
「小刀なら。何に使うんだ?」
弟から小刀を受け取ると、俺は一度右手の血を拭き、切ってみた。
「自分で右手切ってどうするんだよ!?つーか、痛いよ。」
『見てるからだろ。』
「見てなくても痛い。」
右手を見ていると、当たり前だが血が出て来た。
「…手当できる道具なんか持ってないぞ。」
『俺って人かな?』
「あ?何言ってんだよ。人以外の何がある。」
『俺の血…初めて見たが、人のじゃないみたいだ。未来の俺の血とはまた違うな…。』
この血、あいつと同じだ。
『…そうだ、あいつと同じだ!ああ…ああ…あ゛ー』
「兄ちゃん!?大丈夫か?あいつって誰だ?兄ちゃん!」
あいつと同じだと…俺が?嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!嘘だ嘘だ…違う…俺はあいつとは違うはずだ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…あああ…
「兄ちゃん!!」
『はっ…』
俺とした事が…動揺している…
「大丈夫か?俺がいない間に何があったか知らないけど、怖い思いでも…えっ?」
弟に思わず抱き着いてしまった。怖い恐い怖い…俺のが兄なのに。
「兄ちゃんは兄ちゃんだ。ちゃんと人間だ。双子の弟の俺が言うんだから間違いないよ。今度は離れないから。ずっと、俺が兄ちゃんを守ってやる。」
『…人でなくてもか?』
「人だって言ってんだろ。それに、目にだって、手にだって、足にだって、兄ちゃんのためなら何だってなってやる!」
俺よりしっかりしてる…何やってんだ俺は。
『すまん…。』
右手から液体がドクドクと流れ出している。止まる気配は無い。
「とりあえず、町に行って早く止血しよう。人気が多い所だと、少しは安全だろうからな。」
『ああ。』

俺達は町の賑やかな場所へ行った。
「市場が並んでる所は、やっぱり人と声で賑わってるな。」
『どの町も、市場は同じような環境だ。』
「包帯売ってないかな?」
…ほとんど食品が中心な市場で、医療品を売ってる所なんてあるのだろうか?
「あっ!あった。」
思ったよりは、すんなり見つかった。
早速、弟は店に入って行った。俺も後についていく。
「旦那。これ、くれ。兄ちゃんが怪我してんだ。」
弟は店主とやり取りし始めた。
昔から、弟は店の人や他の大人との交渉が上手い。
逆に俺は、苦手で損するばかりだ。双子なのに、性格はまるで違う。
同じなのは、体型と顔くらいだ。目つきは違うがな。
「兄ちゃん、手出して。やってやるから。」
弟が包帯を持って近づいてきた。
『このくらい、自分でや…』
「俺がやるんだよ!」
『はいはい、分かった。頼むよ。』
手を弟の前にやった。手早く包帯をしてくれたのはいいんだが、
俺の手を無駄に触っているようなのだが…
『何している?もういいだろ。』
「逃げてる時も思ったんだが。」
俺の手がどうかしたのだろうか?
確かに、血は普通じゃなかったが、感触は普通だと思うが…
「兄ちゃんの手って、昔からむちむちしてて、気持ちいいしかわいらしいよな。」
何を言い出すかと思えば。
『全く…お前は…』
「うん?」
昔から、変わらないな。こいつの言動はたまによく分からない。
けれど頼もしい。

俺たちは追われている身、あまり長居してしまうと兵士に見つかってしまう。
『そろそろ行こう。まだ宮から近いとこだ。』
「うん。また一緒に旅が出来るんだな....。大丈夫。もう一人にさせないから。」
『ああ。』

. ゜*。:゜あとがき. ゜*。:゜
「gameover」に引き続き、ずいぶん前に書いたものを編集しました。
もう世界観とか口調とか、どうしたかったのか忘れてしまっていて、
編集するのが大変でした(苦笑)
最近は思いついたものは、メモしているのですが....
メモ大事です。
タグ:創作小説
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