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温かさに包まれた子 [小説]

*息子の生まれた日
「今日は栢(かや)の誕生日か…。千雲に言っとくかー。」
栢の父親の千風は、双子の姉である千雲に連絡をすることにした。
「もしもし?千雲?」
「千風。どうしたの?こんな朝早くに。」
「ごめんな。今日さ、栢の誕生日なんだよ。うん。まあ…それだけ。」
千風と栢に血の繋がりは無いためか、千風は栢に対しての愛情の注ぎ方が濃い。
「そうだったわねー。じゃあ、今夜二人でうちに来てくれる?いろいろ準備するわ。波瀾たちも栢が来るって言ったら喜ぶし。」
「いいのか?じゃあ、栢に言っとく。ありがとうな。千雲。」
「気にしないで。ワタシも水嗄等さんも、わいわいやるのが好きなだけよ。じゃあ、今夜ね。」
「ああ。」
千風は静かに電話を切った。
(栢...お前はいいな。みんなに愛されてる。)
栢の様子を伺いに部屋に行くと、まだ気持ちよさそうに眠っていた。
何歳になっても変わらない寝顔だとか、よくドラマで聴くけれど、
千風は昔、成長しているのだから顔変わってるだろとツッこんだが、親になってから、あれは顔ではなく愛おしさなんだと知った。
(休みだし寝かしておくか。...昼飯でも作っといてやろう。)

*大人になっても...
母さんと俺の二人だけだった頃の記憶はあまり残っていない。
もう父さんと母さんと三人になった頃からの記憶が濃いせいだ。
気がついたら、よく遊んでくれた兄ちゃんは俺の父さんになってた。
今はなんの違和感もない。母さんが病死してからは二人暮らしで、中学生の時は反抗したけれど、父さんは俺とちゃんと向き合ってくれた。
毎年毎年、俺の誕生日に必ず父さんは楽しませてくれる。
俺の心臓が普通より弱いからってのもあるのかもしれない。また一年頑張れよと...。
去年は自分でケーキ作って食った後、父さんもウエディングケーキ並のタワーケーキ作って、俺は嬉しかったけど、さすがに苦しかったのを未だに覚えている。
思い出すとケーキはしばらくいらない気がしてくる。
今年はどんな感じで楽しませてくれるんだろう?なんて、大人になっても楽しみにしてしまう。
まだまだ俺も子どもだな...。
大好きな父さんと過ごせるだけでもいい。普段お互い仕事でなかなか昔のように話す事が少なくなっている。
でも、今日は俺は休みだし、父さんは必ず俺の誕生日は仕事があっても休んで俺と過ごしてくれる。
でも、俺は父さんの誕生日を知らない。
何度訊いても教えてくれないし、双子の姉で、俺の高校の時の担任だった千雲さんに訊いても、教えてくれなかった。
「俺は12回生まれ変わって、毎月誕生日だから。」とか「俺は365人いてな。誕生日はみんな違うんだ。毎日が祝いだと大変だろ?ちなみに今日は15番目の俺。」
とか訳わかんない事言って誤魔化される。
意味不明だ。
免許証見てやろうと思って、いつも免許証を入れてるサイフをこっそり見たことがある。でも、入ってたのは免許証じゃなくて、金とレシート、カードと家族写真だけで、免許証がどこにも入ってなかった。
隙の無い人で、自分から免許証が離れる時はパスワードの認証が必要な金庫に毎回入れていて、そのパスワードは誕生日ってんだから、開けられるわけがない。
唯一知ってるのは祖父母くらいだろう。母さんが知っていたか記憶が曖昧で分からない。
だからと言って、俺だけ一方的に祝われてんのも気に入らない。
母の日があれば父の日もある。
俺は勝手に父の日を父さんの誕生日にした。
毎年、誕生日じゃないんだけど?と言われる。ムカつくやつだ。だったら素直に教えてくれればいいはずなのに、楽しんでいるようで絶対に教えてくれない。
だけど、俺もめげない。
来年はどうやってサプライズしようかな?
今年はどんなサプライズしてくれるかな?
誕生日に浮かれながら、俺はリビングから聴こえる電話をする微かな父さんの声を聴きつつ二度寝する。

*喜び~千風~
昼頃に栢が起きてきて、千風の姿を探してリビングを見渡した。
自室にいた千風は栢の足音に気がつき、声をかけた。
「よく寝てたな。昨日帰って来てから何も食ってないだろ。飯作ってあるから。食っとけ。」
『ああ。ありがとう。...なあ、早朝、千雲さんと電話してなかった?微かに名前が聴こえたから。』
千風は一瞬全部聴かれてたかと驚いた。
「してたよ。夕方は天神家に行くことになったから。お前のためにいろいろしてくれるってよ。良かったな。」
『マジ!?うわー。すげぇ久しぶり。波瀾さんもいるのかな?かずにいも麗たんも狐冬も揃うのかな?』
子どものようにはしゃぐ栢を見て千風は微笑ましく思った。
「波瀾も丁度一時帰国してるって言ってたからいるんじゃないか?上総は麗が来るならいるだろうな。りょうがくるなら優御君もセットだろうな。あいつら別々に行動しねーからな。」
『こっちに帰ってきてんのかー。みんなに会いたいなー。』
「きっと全員いるさ。お前は愛されてる。」
『え?』「なんでもねーよ。」
千風は自室に戻った。

*喜び~栢~
二度寝から覚めて、昨夜遅く仕事から帰ってきてから何も食べていないのを思い出して、とりあえず何か胃に入れたいと思った俺は、リビングに出た。
父さんが新聞でも読んでるんじゃないかと見てみたがいなかった。
台所に行って、冷蔵庫の中に昨日の残りでも無いかと探そうかと考えてたら、足音で気づいたのか父さんが部屋から出てきて声をかけられた。
ついでだから、早朝に聴いた電話の事を訊いてみた。

父さんは千雲さんとすごく仲がいい。俺には兄弟がいないから分からないけど、他の家の兄弟も大人になってもあんなにしょっちゅう電話したり、相談し合ったりするんだろうか?従兄弟達も兄弟同士仲がいい。これは河越家の血が関係してんじゃないかと勝手に推測している。
小さい頃はよく従兄弟たちの家に父さんに頼んで連れて行ってもらっていた。
水嗄等さま(...俺の叔父さんにあたるんだけど、とても叔父さんなんて気楽に呼べない。)が高貴なお育ちなせいか家も俺ん家よりすげぇ広いから、失礼ながら隠れんぼなんかには最適だったし、よくパーティー的なのを開いていてよく招待された。
過去形だけれど今でも結構頻繁に招待される。だけれど、父さんも俺もよく仕事がぶつかる。水嗄等さまは結構自由に時間を空けられるらしい。
なんの仕事しているのか知らないんだけど、どっかの社長らしい。
人の姿してる時の話だから、副業みたいなもんだって聴いた。
社長が副業って俺も言ってみたい。
それはともかく、最近天神家に行けてなくて、従兄弟達もそれぞれの生活しててなかぬか全員集まれなかったんだけど、父さんが今日は俺の誕生日だと千雲さんに話したらいろいろ用意してくれることになって、何年ぶりかに集まれそうで俺はそれだけでも嬉しい。
『何するんだろうなー。』
「さぁな。千雲の考える事だからなー。まあ、夕飯メインは俺が用意すんだけど。何食いたいよ?好きなの言え。」
『え?そうなの?』
「そりゃそうだろ。なんで息子の事なのに俺が何もしないんだよ。」
『そうか...。』
父さんから名前で呼ばれるのもいいのだけれど、息子と呼ばれると親子だって感じがして、昔のトラウマもあるせいか俺は安心感というか、温かさを感じるから好きだ。
『...寿司かな?贅沢?』
「いいんでない?一年に一度の一生に一度ずつのイベントなんだから。遠慮するこたぁねえと思うね。さて...じゃあ、材料買ってくるわ。」
『え?...ちょっと待って。作るのかよ?!』
「残念ながら、俺も千雲も料理好きなもんで、出来合い物買う習慣が無くてな。栢も買い出し着いてくるか?その方が自分の好きなネタ食えるぞ。」
父さんと出かける事も最近できていないから、喜んで着いて行きたいんだけど、それより、作るってどんだけの量なんだろうか?父さんの事だから刺身を買うんじゃなくて魚を買って捌くとか言いそうだから、止めるっていう意味でも着いて行かないといけない気がする。うちの台所にマグロまるまる一匹捌くスペースとか無いからな。そもそもそれは買えないか。
『行くよ。』
「じゃあ、仕度できたら来いよ。車で待ってるから。」
『了解!』

*温もりに囲まれて
俺の予想通り、父さんは魚をまるまる何匹も買おうとした。
説得するのに一時間もかけてしまった。
「買い物に時間かけすぎた。」
『誰かさんが拘わるおかげさまでな。でも、作る時間短縮できるから間に合うと思うぜ。』
「いいじゃねーか。マグロの一匹二匹くらい...まあ、いいや。このまま、直接千雲の家行こう。」
『早すぎないか?迷惑かかるんじゃ?』
「大丈夫だ。栢も久しぶりに皆とゆっくり話せるいい機会だろ。」
父さんの判断でかなり余裕がある状態で天神家に向かうことになった。
多分、父さんが千雲さんと料理したいんだろうけど。

天神家に久々に来たけれど、相変わらずデカイ。昔よりデカクなってるような気がする。
「そういや...増築したとか言ってたよな。」
『いや、知らないよ。初めて聴いた。』
やっぱりデカくなってた。すごいな...。
インターホンを押すと、水嗄等さまが応対してくれた。
相変わらず和服の似合うヒトだ。
「いらっしゃいませ。お久しぶりでございます。千風君。栢君。どうぞお入りください。千雲なら台所ですよ。」
「久々だなー。上がらせてもらうわー。台所貸してくれなー。」
「はい。どうぞ。」
『すみません。こんな早くから来てしまって...お邪魔します。』
「いえ、構いませんよ。波瀾が栢君にお土産があると言ってましたよ。ロビーにいると思いますから。行ってみてください。」
『は、はい。ありがとうございます。』
俺はこの水嗄等さまの丁寧な感じがいつも少し緊張してしまう。
どうして、父さんはあんなに気楽に友達感覚で話せるのか不思議だ。

言われた通りロビーに行くと、既に従兄弟達が揃っていた。
「おお!主役の登場ー。久しぶりだねー栢たん!!」
『久しぶりだな!麗たん!体調どうだ?』
「まあまあ、良好ー。わー。なんか見ないうちに栢たんが逞しくなってるー。未だに彼女いないのにー。」
『余計な事言わなくていいよ!』
麗たんは俺の二歳上だけど一番気が合う。
「前の彼女はどうしたよ?ほら、高校の時いなかったっけ?」
『卒業とともに自然消滅したよかずにい。』
「ああ。どんまい。」
この地味に毎回ムカつくけど憎めないのが、上総こと、かずにい。
『波瀾さんは?』
「りょうと部屋に荷物取りに行ったよ。栢へのお土産じゃない?」
『おう...居たのか、優御。小さくて気づかなかった。』
「三階のテラスから突き落とそうか?というか、栢より大きいよ。」
このちょっと物騒なのが、高校の時の同級生で狐冬の彼氏だ。
「賑やかだねー。見ないうちに大人になったねー。栢くん。」
『波瀾さん!』
「相変わらず騒がしい奴だ。成長が見られない。」
『狐冬!成長が見られないのはどっちだよ?相変わらず平らな胸しやがって。』
俺は口を滑らせてしまったために腹を殴られた。
「次は波動を撃ち込んでやる。」
『俺死んじゃうから!』
この力任せなのが狐冬。本名はりょう。俺はとある理由で本名で呼んだことないんだけど。
「まあ、まあ。りょう、それくらいにしなさい。ほら、栢くんに似合うかな?と思ってカッコイイピアスとかお土産に買ってきたから。誕生日なら丁度よかった。俺がデザインしたのもあるんだ。はい。」
『ありがとうございます!俺、波瀾さんのデザイン好きです!』
「ありがとう。」
波瀾さんは海外でアクセサリー関係のデザインの仕事をしていて、こうやって俺にプレゼントしてくれることが結構あるんだけど、結構ブランド品でいい値がするらしい。
しばらく談笑していると水嗄等さまが呼びに来てくれた。多分父さんが気楽に呼んできてくれとか言ったんだろう。
「みんな揃っているようですね。千雲と千風君が主役を待っていますよ。行きましょう。」
「ちーちゃん、何作ったんだろうねー。」
「ちーくんが刺身持ってたの見たけど?なんか聴いてない?栢たん。」
『あー。寿司。俺が食いたいって言ったから。』
「寿司パだな。」「寿司パ?」「うん。寿司パ。」「面白そう。」
会話が成り立ってるのか分かんないけど、こうやって大人数でわいわいやるのはあったかいから好きだ。
来年も再来年も俺の心臓が動いていて、またできればいいな。

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