So-net無料ブログ作成

あなたからの贈り物 [小説]

▼ユメー夢
「パパ…ねぇ、パパ。」
『なんだ?』
「ぼくね、おっきくなったらね、パパとおんなじ、せんせーになるんだ!」
『そっか。パパ嬉しいなー。栢(かや)ならなれるぞ。』

[ジジジジジジジジジジ……]
(ジジジ…?目覚まし?あれ?)
「父さん!父さんってば!起きろや!!遅刻すんぞ父さんが。」
(ユメか…。)
気がつくと、大きくなった息子が朝から俺の体に乗って起こしにきていた。
『重い。骨刺さってる。痛い。』
「おはよう。朝飯くれ。」
小さい頃はあんなに健気な息子は高校生になってちょっとは逞しくなったが、まだまだお子さまだ。
『今日は日曜。父さんは学校はありません。だから寝ます。朝飯はテキトーに自分で食べなさい。』
「えー…。なあなあなあなあなあ!!!」
『うるせえな。早く降りろ。』
「あーさーめーしー。」
『自分でやれって。暴れるな。』
この子は覚えているんだろうか?俺と同じ教師になる夢を。高校は俺も昔、通っていたところだが…最近は何になりたいとかは訊かないし、聞かない。
「いいよもう。コンビニ行って買ってくるから。」
『…まったく…わかった。作ってやるから降りろ。』
「よっしゃ。マジありがてー!」
言葉遣いは似てきてしまったよ。妃奈(ひな)さん。

▼親子の会話
せっかくの休日でも叩き起こされて飯つくらされてる父親って……。
着替えて、仕方なく俺は台所に立って飯を作り始めた。
「なあ、父さん。俺、懐かしいユメ見たんだ。小さい頃、父さんに会った日のユメ。」
『あんなちっさかったのに覚えてんのか?』
「うっすら。3歳の時だから、はっきりとはしてねーけど。」
『ぽてぽて歩いてたな。お前は多分走ってるつもりだったかもしれねーけどな。』
息子は顔を真っ赤にして俺の背中をバシバシ叩いた。
『止めろ。包丁落としたらどうすんだよ。』
「父さんの足に突き刺さる。」
『やだなー。怖えー。』
息子も昔のユメ見てたのか…。
一緒に居りゃ似るもんだな。
「父さん、アイス食っていい?あのユメ見たら食いたくなった。」
『いいって言うと思うか?お前は少食だからアイス先に食ったら、せっかく俺が休日の朝に“わざわざ”作る飯を食べられなくなるだろ。』
「ハハーですよねー。ダメですよねー。」
何気ない親子の会話。俺はこの会話ができる事が幸せだと思う。もし、俺が妃奈さんと会わなかったら味わえなかった幸せ。

▼過去ー出会い
俺が、今はいない妃奈さんと出会ったのは息子である栢が切っ掛けだった。
そう。俺と栢に血の繋がりはまったく無い。
その頃俺は、教師の免許は取得したものの、なかなかすぐ学校に入って先生をやるっていうのは難しく、臨時教師としてちょこちょこやるしか仕事はできていなかった。
当然時間はあるもんで。
大学時代の仲間数人と街を歩いていた。
ただ宛もなく歩く俺に小さい男の子がアイスを片手にポテポテ走って近づいてきた。
『ん…お!?ちょっと待て!そのまま来るとアイスがー!!』
突進された挙げ句、案の定上着がアイスまみれになった。
「ああ!やだ。栢!!あぁ…ごめんなさい。」
『あー。いえ。大丈夫です。上着なんで脱げば。』
俺の仲間は笑いを堪えていた。
「パパー。」
俺は勘違いをされたのだと悟った。
仲間は、ついに吹き出した。
「パパだって。お前いつの間に子供いたんだよ。」
「いつ産んだし。」
「いや、パパは産まねーよ。」
「そこじゃねえよ!」
ゲラゲラと笑う奴等。申し訳なく俺の上着を頑張ってキレイにしようとする男の子の母親。何も悪気の無く、俺に抱きつく男の子。
「よりによって目付き悪いし、言葉遣いも荒いお前がパパだってよ。」
からかうのもいい加減に飽きろよ。
でも、確かになんで俺なのかわからなかった。隣には俺よりも穏やかそうで子供も安心するようなタイプのやつがいたからだ。
「俺とお前のパパ似てたか?」
男の子はきょとんとした。あれ?
「すみません。この子、見たこと無くて…茶髪で耳にイヤーカフしてたって教えたら…。」
納得した。
この子が産まれる前にいなくなって、父親の外見だけ教えられて、似た人がいたら、とりあえず父親だと思って近づく子なんだと。
俺は茶髪だし、オフの時は格好くらいつける。
「あの、少しは落ちたんですけど、シミになってしまうので、クリーニング代を払わせてください。」
『いやいや気になさらずに。』
「そんな訳には!えっと…」
母親は鞄からメモを取り出して、名前と電話番号と住所を書いて俺に渡した。
「クリーニング代を支払いたいのでこちらにお願いします。本当に申し訳ありません。」
男の子が不安そうに俺と母親を交互に見ていた。
「ママ?パパじゃないの?」
「違うわ。だからね、栢くん、お兄さんにごめんなさいしようね。」
男の子は俺の手を両手で握って謝ってきた。
『いいよ。今度からママから離れて走っちゃダメだよ。』
男の子は頷いた。頭を撫でてやると笑顔を向けてきた。これだから子どもは可愛い。

▼過去ー好意
あの母親に言われた通りクリーニングに出した。別に支払ってもらわなくても構わないけれど、あの母親は律儀な人だから気にし続けてるかもしれないと思って、あの日の上着を着て、家に行く事にした。ただの報告として。

教えてもらった住所と名前を頼りに家を探した。
一軒家に辿りついた。
『ここか?』
とりあえず、インターホンを押してみた。
「はーい!ど…ら…で…か?」
上手く聞き取れなかったが、あの男の子が出てしまったようだ。
『河越です。お母さんいるかな?』
「マーマー!」
どうやら母親がいるようで安心した。
母親が玄関を開けて出てきた。
「先日の!どうぞお上がりください。少々散らかってますが…。」
俺は遠慮なく、上がらせてもらった。
『クリーニング行ってきましたよ。あの時咄嗟にキレイにしてくださったので、たいした事はありませんでした。この上着がそうですよ。』
母親に上着をヒラヒラとさせて見せた。
「良かった。あ、代金お支払しますから、教えていただけますか?」
『いらないです。今日はそれを言いたくて来ただけですから。』
「で、でも…」
『じゃあ、変わりとして男の子と遊ばせてください。』
「え?」
『俺、子どもが大好きなんです!だから、遊ばせてくれるだけで十分ですから。』
「うちの栢も喜びます。保育園にも幼稚園にも行けてないので。体力が有り余ってしまって。」
一人遊びをしている男の子を母親は俺のとこに連れてきてくれた。
「おにーちゃん、あそんでくれるの?」
『ああ。栢くん、俺と遊んでくれる?』
「うん!!」
1時間じゃれあって、はしゃぎにはしゃいだ男の子は疲れて眠ってしまった。
「ごめんなさい。この子、あまり体力がなくて…。」
それから、2時間程度母親と話した。
男の子、栢くんは体が弱く施設で他の子と同じように遊ぶ事ができず、入退院を繰り返しているようだ。母親の、妃奈さん自身も体が丈夫という訳ではないが、栢くんのためにと仕事を2つしていた。
俺はその日から二人が気になって、空いてる時間を見つければ会いに行くようになった。
妃奈さんが仕事に行っている間に栢くんの面倒をみたり、飯を作って持っていったりとするようになった。

栢くんが5歳になった頃、家族のように親しくなった俺を見てこう言った。
「ちーくん。なんで、ちーくんはボクのパパじゃないの?こんなにいっしょにいるのに。」
妙にその言葉が俺の心に残った。
(俺はなんでこの家を出入りしてるんだっけ?)
すっかり日常になっていて忘れていた。
俺は、妃奈さんも栢も好きで、守りたいと思っているんだと改めて思い直した。

▼過去ー決意
俺は栢くんと同い年の子がいる、双子の姉の千雲(ちう)に相談してみた。昔から俺は姉に付いて、姉を頼りにしてきた。
姉の家に行き、直接話してみた。
「千風(ちかぜ)、いきなり父親になる覚悟あるの?血の繋がりがなくてもちゃんと愛して育てられる?二人を養えられる?」
『俺は妃奈さんも栢くんも好きなんだ。それだけじゃダメかな?千雲も水嗄等(みさら)さんが好きだから結婚したんだろ?同じだよ。覚悟はできてる。それに、栢くんは俺に対する最高の贈りものなんだ。普通に妃奈さんと出会っていたらあり得なかった。俺は子どもができない体だから……。そういうの全部引っくるめて俺は!』
「いいんじゃない?ワタシは否定できる立場にないもの。千風だって大人だからね。後は父さんを説得させなさいよ。ワタシに言った事そのまま言えば大丈夫よ。ね?」
やっぱり千雲に言って良かった。
自分が思っている事を口に出すことによって決意が固まる。

俺はその後、妃奈さんに電話をかけて、会う約束をし、プロポーズする事にした。
「そういや…自分から告白とかしたことないな…。ストレートに言ったほうがいいんだろうか?やっぱり、ドラマみたいなロマンチックな言葉のひとつやふたつ言ったほうが……。」
学生時代、何人かの女の子と付き合った経験はあるものの、自分から告白をして付き合った子はいなかった。
俺から好きだと思った子がいなかったからだ。付き合った子たちは姉に依存する俺を嫌がって別れた。別に本気で好きではなかったから、あっさりしていた。しかし、今回は本気で、俺の方から好きになった。
好きという気持ちがこんなに重いものだとは知らなかった。
もし、断られてしまったらどうしよう。とか、結婚できたとしても途中で嫌がられて、離婚となったらどうしよう。なんて、まだ何もしていないのに考えてしまう。
そう考えると、今まで付き合った子達に俺は相当酷い事をしたと思う。
付き合っていればそのうち俺も好きになるかもしれないと思って付き合い始めて、気があるようなフリをして、やっぱり好きになれなくて破局。
こんな残酷な仕打ち酷すぎる。自分の事ながら最低な野郎だ。

車で妃奈さんの家に行った。
「ごめんなさい。今日、栢をわたしの母に預けてしまって、いないんですよ。どうぞ、あがってください。」
『お気になさらず。今日は妃奈さんに用があったので。…お邪魔します。』
覚悟を決めたとは言え、急すぎただろうか?しかし、栢がいないのは都合がいい。
妃奈さんは、台所でお茶を用意しながらリビングにいる俺に話かけてきた。
「これからわたし、急に仕事入っちゃって、1時間くらいしたら出なきゃいけないんですけど、母も用があるらしくて、栢が帰って来ちゃうよですよ。予定が空いてたらでいいんですが、わたしが帰ってくるまで栢の面倒を見てくれませんか?なるべく早く終わらせてくるので。」
『構いませんよ。今日はオフですから。』
「すみません。いつも頼ってしまって。」
妃奈さんはそういうと、俺の前にお茶を出して、向かいの椅子に座った。
「そういえば、今日はわたしに用があるんでしたよね。本当にすみません。それで、なんですか?」
言うタイミングをどうしようかと思っていたところに、フリがきた。
『えっと…。』
妃奈さんの手を両手で包んで、目を見つめた。
緊張してきた。
「え?」
『俺と結婚してください。妃奈さんも栢君も好きなんです。俺に二人を守らせてくれませんか?』
突然の事で妃奈さんは驚いて停止している。
俺も随分ストレートな言葉が出てきて驚いている。
「少し考えさせてください。後で栢とも話し合いますから。」
『はい。話し合ってもらえると俺としても…』
「じゃ、じゃあ、わたし仕事行ってきます。栢をお願いします。」
動揺しているんだろう。まだ時間はあるが俺といったん距離をとりたいようだ。
『あ、ああ。はい。気をつけて。遅くなるようなら連絡ください。栢君の夕飯とか寝かしつけたりするか決めるので。』
「は、はい。ありがとうございます。行ってきます。」

その晩、妃奈さんは帰りが遅くなった。家に帰ってきた栢君の世話をして妃奈さんが帰ってくるまで、お邪魔していた。

それから、一週間後くらいだろうか。妃奈さんから三人で遊園地にでも行かないかと誘われた。
そこで妃奈さんにOKをもらった。

俺は浮かれていた。▼過去ー願いと責任と罪悪感
栢が6歳になった頃、俺と妃奈さんは結婚した。三人で家を探して住み始めた。
栢も生活に慣れて、環境選びを重視させたおかげか、入退院を繰り返す回数が減ってきた。
『栢、来年小学校だなー。』
「うん!いっぱいお友だちと遊ぶんだ!!」
『栢、小学校は遊んでばかりじゃダメなんだよ。ちゃんと勉強もしねーとな。』
「知ってるよ。僕ね、パパと同じせんせーになるんだ!ママがね、せんせーになるには、いっぱいおべんきょーしないといけないって、言ってたから、僕頑張るんだ。」
『そっか。パパ嬉しいな。』
「パパに喜んでもらえて良かったわねー。栢。」
「うん!!」

俺はこういう、家族のたわいない会話がずっと俺が死ぬまで続くものだと思っていた。夢でもあったから。俺は父親と家族会議で二言三言しか話した事がない。俺にはあの家族の中で姉がいれば生きていける気がしてたし、父親も俺に関心がないようだから。子どもがいる人と結婚すると報告した時も、「そうか。」で終わった。姉の旦那とはかなり話すくせに俺には興味がまったくないのだ。そりゃ俺はあの人と違ってただの人間だし、稼ぎもたいしたことねーかもしれないけれど…。
だから、俺はたわいない会話が好きだし、栢に対して関心をはらうようにしている。俺がしてほしかった事と感じたかった事をこの子には味わってもらいたいとも思っていた。

まさか、妃奈さんがいなくなるなんて予想していなかった。

栢が7歳の時、妃奈さんが徐々に体調を崩していった。
妃奈さんは大丈夫だからと病院に行きたがらなかった。
しかし、日に日に痩せていくのを見て異常だと思い、病院に無理矢理連れて行った頃にはすでに手遅れ。多分、妃奈さんは気づいていたんだろう。
前から丈夫ではないと言っていたけれど、最近は薬があまり効かなくなってきたと話した日があった。もうその時点でタイムリミットがあったんだろう。
栢は元々細かい事に気づく子だから、妃奈さんが弱っていくのを敏感に感じとっていた。
このままだと、栢までも弱っていってしまう。
妃奈さんも栢も俺が守ると決めた。俺は何をすれば……
「千風さん。」
『何?』
「いくつかお願いをしてもいい?」
『ああ。なんでも言ってくれ。妃奈さんの願い事なら叶えてやる。』
「ありがとう。じゃあ、ひとつめ。」
『どうぞ。』
「わたしが死んだら、栢はあなたに頼んでもいいかしら?」
予想はしていた。いつかは言われるだろうと。
『死んだらなんて…まだ生きてるじゃねーか。つか、何言ってんだよ。栢は俺の子だ。面倒は見続けるに決まってんだろ。他は?』
「ふふ…死んだら言えないもの。でもそうね。じゃあ、ふたつめ。」
『よし。こい。』
「わたしがいなくなったら、他の人を見つけてください。栢には母親が必要だと思うの。あの子はまだ小さいからすぐ馴染めるだろうし、千風さんも若いからすぐ見つかると思うの。」
妃奈さん以外を愛する?妃奈さん以外が栢の母親になる?
『ごめん。それは叶えられない。知ってるだろ。俺がどういう奴なのか。話しただろ。』
「ええ。知ってるわ。でも、千風さんならきっと大丈夫。わたしがよく知ってるもの。」
『……。ごめん。ホントそれだけは勘弁。次言って。』
俺にその願い事を叶えてやれる程の愛情はもう残ってないんだ。
全部、妃奈さんと栢に注いでしまっているから。他にやれるほど無いんだよ。枯渇しちまうじゃねーか。
「千風さんったら…しょうがないわね。でも、いつまでもわたしに縛られていられるのは嫌よ。幸せでいてほしいから。わかってくれませんか?」
『俺は妃奈さんと栢といることが幸せです。俺の気持ちも察してくれねーかな?なんて。冗談。ここは、やっぱ、はい。って答えておこうか。』
「そうね。そう答えてくれると…安心よ。」
『そういう割りに、妃奈さん、涙でぐしゃぐしゃだぞ。』
「千風さんが泣かせたんでしょ。」
『俺のせいかよ。ひでーな。』
「千風さんも泣いてるじゃない。」
『うっせー。急に昔折られたとこが痛んだだよ。』
「嘘つくのへたね。」

確か俺と会話したのがあれが最後だ。
栢とはその後話したから。
危なかった。
もし、栢が学校から帰るのがもう少し遅ければ話さずに終わったかもしれない。
もう少し猶予があると思ったが、願い事をして安心したのか、はやかった。
栢は8歳で、周りがなぜ泣いてるのか理解できるような年ではなかった。
ただ、母親と一緒にいられなくなったというのは悟ったのか、俺にくっついて、不安そうな顔で見つめてきた。
『大丈夫。パパがついてる。』

少し落ち着いた頃に、妃奈さんの両親が訪ねてきた。理由はなんとなく分かった。
「久しぶりね。千風さん。」
『お久しぶりです。すみません。今、栢は学校で…15時頃には帰って来ますんで、寛いでいてください。俺も午後から明日の学校の準備しないといけないので、来てくださって助かります。って…失礼ですね。』
「いや。いいんだ。君は教師だからね。忙しいのにすまんな。それで、その栢の事なんだが…」
『栢なら元気ですよ。大丈夫です。』
取られる……このままじゃ、俺の唯一の暖かさを感じさせてくれる息子を取られる。
「そうか。元気か。しかし、やっぱり疲れるだろう。」
『そんな事ありませんよ。父親ですから。』
「千風さん、わたし達なら時間があるわ。こういうのも悪いとは思うんだけど…千風さんと栢は血が繋がっていないんだから。もうあの子は…」
『俺の子です。妃奈さんと結婚する時言ったはずです。俺は妃奈さんと栢が好きで、二人を守りたいと。もし、栢に妹か弟ができても栢を愛しますと。栢はもう俺の子なんですよ。俺の前の男でも、悪いですが、あなた方の子でもありません。あなた方の子は妃奈さんであって、栢ではありません。』
「でも…これは栢がどう思うかの問題で…。」
『栢にも決める権利はありますが俺はあの子の親ですから。それに、妃奈さんからお願いされてますから。…そろそろ行きます。夕飯は冷蔵庫に全て用意してありますから、俺が遅くなるようなら連絡するので、その際はレンジで温めて食べるよう、栢に言ってありますから。では、ごゆっくり。』
俺はその場をいったん離れたかった。

その日の晩、家に帰ると泣きながら栢が迎えてきた。
「おか…えり…。」
『どうした?』
「僕、パパと離れたくない!パパもママと同じで、会えなくなるの嫌!」
『パパはいなくならないよ。』
(あの野郎……。)
「僕、ママにパパを守ってねって言われたから!離れちゃダメなの!…パパは僕があんまり言うこときかないから、じーちゃん達んとこに行かなきゃダメなの?…僕いい子にするから!!」
(あのクソじじいとババア………妃奈さんとこに送ってやろうか?栢に何言いやがった。)
『栢はいい子だよ。大丈夫。パパとずっと一緒だよ。』
栢を抱き上げ宥め、とりあえずリビングに入った。
深刻そうな顔、というか残念そうな顔で俺を義父親が見ていた。
それを、俺は容赦なく睨みつけた。
「そ、そう睨まないでくれ。少し栢に訊いてみただけだ。」
『義母さんは、どこです?』
「ああ、ちょっと…風呂の掃除…。」
栢を抱いたまま風呂場に行くと、義母がいた。
「あら、おかえりなさい。あなたひとりだと掃除とかできてないかもと思ったんだけど…」
『毎朝掃除はしてますから。結構です。ありがとうございました。今日はすみませんが、帰っていただけませんか?栢が怯えているので。』
「やだ。あの人ったらせっかちで…ごめんなさいね。栢。じーちゃん怖かった?」
「僕、パパとずっと一緒にいるの!」
「そうねー。栢がそういうなら仕方ないわね。でも、寂しくなったらいつでも来ていいからね。じゃあね。」

二人は帰っていった。
栢は眠ったら、俺と離れると思ってなかなか寝ついてくれなかった。
(どんな脅しをしやがってくれたのか……。)
血の繋がりの無い俺ら親子の事を考えてくれているのはいいが、俺らには俺らなりの親子関係がある。
外野にとやかく言われたくねー。
(俺には栢を育てる責任がある。)
と思いつつも、キツイ態度をとってしまった事には多少罪悪感を感じるもので…そのせいか、栢にとってはあっちに育ててもらったほうがいいんじゃないかとも、チラッと考えてしまう。
『父親の俺がしっかりしてねーでどうすんだよ。』

栢の事を配慮したのか、あれからあちらから引き取るという話は出なくなった。

▼あなたからの贈り物
栢が例え道を少し俺と同じように、遠回りしてしまっても、周りが俺らを引き離そうとしても、
妃奈さんからの大切贈りものを手放したくはない。
どうしようもなく愛おしいから、そう思う。

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。