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生きた屍を愛した少年 [小説]

「こんな昼間っから一人で公園?寂しい子。学生でしょ?中学生?学校は?どうしてこんなところでブランコなんか乗って明後日の方角見てんのよ。落ちるよ。ブランコからも成績も受験も人生も。ふははは…そんなアホみたいな顔しなくても。」
「じゃあね。少年。私は君と違って忙しいんだ。また会えるかもねー。私と少年は違うけどわたしと君は似ているから。」

俺は中学生の時、不思議なお姉さんに出会ってから、そのお姉さんの夢をよく見る。
俺はいつまでお姉さんの夢を見続けるんだろうか?彼女に会えば見なくなるのだろうか?

俺が中学1年の時、学校の創立記念か何かで学校が休みだった日に、真っ昼間にほとんど人が立ち入ったのを見たことがない寂れた公園になんとなく出かけた。ただ家にいても8つ下の弟がうるさいだけだし、趣味も別にないし…と、特に家にいる理由もないから出かけただけだ。
その辺の店でも良かったが貧乏学生が何か買う金なんかもちあわせてる訳がない。
ついでに、遠くに行く気力も無いとなりゃ、近くの寂れた公園に行って適当に時間を潰そうとなるのだ。
管理が行き届いてなさそうな遊具の中で座れそうなブランコに腰かけてぼんやりと空を見た。
と、言っても木が生い茂って空なんかほとんど見えなかったのだけれど……。
そこは周りから切り離されたような空間に思えた。
あまりに静かで、あまりに周りの建物も人影も見る事ができない状態だったから。
ブランコに座って、ボーッとしてからそんなに経たないうちに、あのお姉さんに見つかり、質問攻めにあった。

「誰ですか?僕に何か用ですか?…というか、あなただって、昼間から彷徨いてるじゃないですか。仕事とかしてないんですか?」
「失礼だな。私を少年と同じにしてほしくないねー。」
何かと僕に対して初対面なのに失礼なお姉さんだった。
「少年。私は…そうだねー。夢追人って言っておこう。」
「遊び人の間違いではなく?」
お姉さんの言っている意味が分からないけど、この人にペースを渡したら負けな気がしたから、反論できるとこはしようと頑張った。
「少年、なかなか言うね。やっぱり私の目に狂いは無いね。うんうん。」
「何なんですか?」
「私は遊び人じゃないよ。今は休憩時間でね。ここでいつも休んでるの。そして、その席は私の特等席ね。珍しいと思ってつい声をかけてしまった。」
こんな寂れた公園に休憩とは…変わり者にはこの公園は結構利用されているのかもしれないと思ったが、それだと、俺も変わり者みたいだから、途中で考えるのを止めた。
「若い女性なら、もっと別なとこに行くべきだと思いますよ。ここ。周りから中の様子見えないから犯罪の巣窟です。暗くなればなるほど。」
「少年にそのまま言葉を返すよ。君は男だから大丈夫って思うの?実際どう?こうやって知らないお姉さんに話しかけられてんだよ?」
墓穴を掘ったようだ。
「まあ、私は何もしないけど。ところで少年。」
「はい?まだ何か?」
お姉さんは空いている隣のブランコに座って、僕に近づいてきた。
「男がモテる為に…と、手を出すものは何でしょう?」
「いきなりですね…」
いや、この言葉は誤りだ。このお姉さんは最初からいきなりだ。
「スポーツとか楽器ですかね?だいたいは。」
「素直に答えてくれて嬉しいよ。そこで少年に人手の足りない私のバンドでドラムをやってほしいのだけれど。いいよね。」
「なんで初対面の俺が肯定する流れなんですか。」
「えー。少年は女の子にモテたいとは思わないの?ドラムできる男の子かっこいいよ。」
このお姉さんは勝手すぎる。
僕はドラムなんかやったことない。唯一できる楽器といったら、リコーダーくらいだろ……。しかも、よく初対面の人にバンドの数合わせに勧誘するよな…無茶苦茶だ。
「もしかして女の子にじゃなくて男の子に…そうか。でも、どっちにしても大丈夫。かっこいいから。」
何も大丈夫じゃない。俺を勝手に男好きにしないでくれ。普通に女の子が好きだ。
「どんな理由にしろやったこともないドラムなんかできる訳ないです。」
「私が教えるよ。」
「は?あなたができるならいらないじゃないですか。」
「ダメなんだよーそれが。私じゃバンドが息をしないんだ。私は心臓だから。それに…いずれ心臓も動かなくなる。」
俺はある本で読んだ事がある。
バンドでは生き物で、手足となるのがギターやキーボード、ボーカル…血液となるのがドラム。心臓となるのがベースだと。
「お姉さんはベースなんですか?」
「ん?素人でよく分かったね。」
このお姉さん、俺を素人言いやがった。
素人と分かりながら俺を誘う意味が分からない。
心臓や手足が丈夫でも血がまともに送られなければ麻痺した状態になるのは分かりきったことじゃないか。
「少年。君が私のこの誘いを一旦断っても、君は私もドラムも忘れられなくて、私に会いに来る。そして、その時、君はドラムが上達している。」
「なんでそんな予言みたいな事言うんです?」
「予言じゃない。確信だよ。」

俺はあれからお姉さんの言う通り、あの話しが気になって、ドラムに興味を示し、夢中になって練習した。
ドラム練習のおかげか、中1にはいなかった友達が中2ででき、高校でバンドを組んだ。先日、そのバンド最後の解散ライブを施設で行った。
俺はあれから公園に行っていなかった。周りの環境が変わり、楽しかったから、行く暇も無かった。
もしかしたら忘れようともしていたのかもしれない。
あのお姉さんの言う通りにはならないと…。
高校で組んだバンド解散で、少々手持ち無沙汰になった俺は、居るわけもないお姉さんに会いに休日の昼間に公園に行った。
中1の頃に比べて、あの公園は整備されるようになって、ずいぶん見通しが良くなっていた。
あれは平日だったからいないだろうなと思ったとこで自分の思考にびっくりした。
何年も同じとこで同じ時間に同じ場所に毎日くる筈がないと思いながら、まるでお姉さんに会いたがっているようだったから。
俺はあの日と同じブランコに座った。
「あれ?こんな低くかったっけ?」
「ブランコが低くなったんじゃなくて、少年が成長したんだよ。」
後ろから急に声がしたものだから、俺はビックリして落ちた。
「ほら、私の言った通り落ちたし。私の元に来た。」
ズボンの土をほろい、振り返るとあの頃より少しやつれた感じのお姉さんが立っていた。
「久しぶりだね。ずいぶん大きくなったじゃないの。初めて会った頃は私より小さくかったのに。」
「……18ですからね…。あなたは何歳に?」
「女性に歳は訊くもんじゃないよ。少年。20代後半と言っておこうか。」
「はあ……ところで、ここで毎日俺を待っていたんですか?」
「まさか。私にはそんな時間は無いよ。私は夢追人だからね。」
まだ、んな事言ってやがるのかこの人は。
「じゃあ、偶然ですか。」
「偶然ではないよ。私は少年と似ていないけど、わたしと君は似ていると言ったよね。だから今日来ると分かった。」
このお姉さんいったい何者ですか。
「全く意味が分からないんですけど…。」
「少年は私とわたしに恋をした。私は少年と君に恋をした。と言ってるんだよ。まあ、まだ分からなくてもいい。」
はい。全く分かりませんし、俺がお姉さんに恋をしたとはどうしてそんなに自信を持って言えるのか。それに、なにげに今告白されたような気がする。
「ドラムができるようになったのは少年の手を見れば分かる。私のバンド仲間も今日は呼んである。是非会ってくれないかな?」
なんでそんな準備万端なんだよ…。
「ああ、はい…。」
お姉さんが携帯でワンコールすると、公園の側に停めてあったワゴン車から二人の女性が出てきた。
ギターとボーカルだそうだ。
「3人のガールズバンドなんですか?」
「違うよ。元ドラムは男性だから。」
「だからその代わりに俺と……その元ドラムの方は辞められたんですか?」
「……元ドラムを担当してたのは、私の兄でね。辞めたのではなく、辞めざるを得なかったんだ。」
ドラムを辞めざるを得ないとなると、手が動かないとか足が動かないとか…色々考えられるけど…。
「事故ですか?」
「いや、元々無理をさせていた私の責任なんだけれどね。後々それは話そう。」
「はあ……。」
「とりあえず、近くのスタジオセッションしよう。少年がどれだけ上達したか、感じとってあげるから。」
俺は言われるがままワゴンに乗せられ、スタジオに連れ去られた。
小さなスタジオには楽器がすでに揃っていた。
それぞれ、楽器を調整した。
「じゃあ、始めようか。」
「待ってください。何やるんですか?」
「少年。適当に合わせてくれないかな?」
「は?」
いやいやいや。何やるか知らないで適当にビート刻めって…初の顔合わせのメンツでやるのおかしくない?
そりゃ、あなた達は今までやってきてるからパターンが決まってるからそれができるのであって、俺は初対面の人の曲の好みなんか知らない。
そんな無茶を言われて困惑する中あのお姉さんはベースを弾き始めた。
ふざけんなよオイ。
少しするとギターが加わった。
まてまて。心臓と四肢だけが動くな。
ついにボーカルもはいった。
英語かよー!俺わかんねえぞ。
俺は俺抜きで進む曲に違和感を覚えた。
心臓と四肢は動いて、声を出しているようだが、血液が無い状態で、心臓は無駄に生き急ぎ、四肢は痙攣し、声は叫びで、生き物とは…曲として耳に届かなかった。
よく聞いていると、クラシックをアレンジしたものだった。
「ハンガリー狂奏曲…なぜこれなんだ…。」
ペースを掴んだ俺は心臓にあわせて、血液を四肢に送り声にした。
生き急いだ何モノかは生き物になった。
血液が送られると活発になった生き物は6時間動き回った。
「ハァ…ハァ…ロックアレンジ…メドレーにして…ハァ…ゲホッ…6時間ぶっ通すとか…ゲホッゲホッウエッ……素人あがりの俺を…ウエッ…殺す気ですか。」
「いやー。久しぶりに生き返ったもんだからつい。」
こりゃ、元ドラマーがいなくなって当たり前かもしれない。こんな日ばっか続いたらどこか壊す。
「でも、気持ち良かったでしょ。生ぬるい学生バンドよりはさ。」
このお姉さんはどこかで俺を見ていたんだろうか?
「ハァ…ハァ…俺にはその生ぬるいほうが…合ってます…。」
「そんなはずないよ。少年が血を注ぐことができたからメドレーが成り立ったのだから。」
「いや、なんとなく曲の流れがわかったんで…。」
「次はエリーゼのためにでもやるか。」
「もう、俺は帰りたいです。」
「誰も今日やるとは言ってないよ。」
ちくしょう。なんだこの地味な敗北感は。
ふと、お姉さんを見ると、手首をおさえていた。
「やっぱり痛めたんですか。」
メドレーは終わった訳じゃなかった。
突然終わらされた。
心臓が急に止まったからだ。
「大丈夫。明日には動くから。」
「無茶すんのは兄妹揃ってですか?」
俺は知ったような口でついお姉さんに言ってしまった。
「少年もなかなか見透すじゃない。」
俺には皮肉に聴こえた。
「少年を家に帰さないとね。楽器をワゴンに積むから手伝ってくれないかい?帰りたいなら。」
手の動かせないお姉さんに無理矢理楽器を運ばせる訳にいかないし、家に帰りたいから、手伝ってスタジオを空にした。
ワゴンに俺も乗り込んで、バンドメンバーが発車するのを待った。
お姉さんが俺の隣に座った。
行きは助手席にいたのに…場所は決まってないのか…。
お姉さんを見ると、やつれたと思った姿がさらにやつれて見えた。
このまま死んでしまうんじゃないかとも思えた。
「大丈夫ですか?」
思わず声を掛けたが、さっきまで皮肉を言っていたお姉さんから返事が無かった。
「お姉さん?マジ大丈夫です?無茶しすぎたんじゃ。」
お姉さんがさっき、明日になったら手が動くようになると言っていた…
俺はあの頃の会話を思い出した。いずれ心臓は動かなくなると言っていた。これは自分がベースも弾けなくなるという意味だったのではと気づいた。
家に送られた俺はワゴンから降りた。
「お姉さん、俺、このバンドに参加してもいいよ。」
「…少年、何言ってるの?」
「は?」
「私が見つけた時から、少年はバンドメンバーだよ。」
「なっ!?は?」
この人はしばらく弱っててくれたほうがいい気がしてくる。
「また明後日迎えにくる。」
「え……いや、いいですけど……そうだ、ちょっといいですか?」
「ん?」
「クラシックアレンジしかやらないんですか?」
「編曲は私の兄がしていた。やりたい曲があれば自分で編曲すれば私たちはやるよ。生きた屍は生きた生物になったんだから。」
あまり意味は分からないが、俺が編曲できる技術があれば何やろうがいいってことか。このお姉さんは、俺ができないと知りながら言っているような気がした。

バンドメンバーに礼を言って自宅に入った。
「ただいま。」
「おかえり。にーちゃん。どこ言ってたの?」
「バンドのセッション」
「解散したんじゃないの?新しいのもう結成したの?」
「元々あるとこに入れられただけ。悪いな遅くなって。今晩飯作ってやるから。」
「ふーん。ああーいいよ。オレさっきカップ麺食ったから。」
「そう…。」
俺の母は弟が産まれてちょっとしてから俺たちを置いてどっかに行ったきり帰ってきていない。
置いて行かれた俺たちの面倒を見てくれていた父も去年、出て逝った。二度と帰ってこれない高いところに。
だから、弟の面倒は俺がみている。
いろんな管理は祖父母がやってくれた。
「俺も今日はカップ麺でいいや…。」
お湯を沸かし、カップ麺に注いで、自室で食う事にした。
3分待ってる間に、あのお姉さんについて考えてみた。
お姉さんに行きのワゴンでお兄さんの事を聞いた。
しかし、その兄の話が俺の父親と聞くほど似ていた。
お姉さんのお兄さんも去年亡くなっている。
「歳とか聞いときゃよかったな。」
俺の父親はお姉さんのお兄さん同様にドラムをやっていて、どこかのバンドに所属していたらしい。でも、父親も病が悪化してドラムから手を退いたと聞いている。
俺が中1の時、すんなりドラムをやろうと思ってできたのは父親がドラムを所持していたからだ。
でも父親が教えてくれる事はなかった。
俺の血はもう体に回らないとかなんとか言って、全く相手にしてくれなかったから独学で叩き込んだ。
カップ麺を食べ終わった俺は、父親の部屋に入った。
未だに手が付けられずそのままにしていた。
「アルバムが確か…机の引き出しに…。」
父親の机の引き出しに昔のアルバムを去年、部屋を片付けようとして見つけたのを思い出した。
「あった…。」
そのアルバムを自室に持ち帰った。
でもその日は見る気がしなかったから、別な事を考える事にした。
「そういや…今日あのお姉さんに告白みたいなの言われたな…俺もお姉さんに恋してる的な事も…そりゃない。」
俺は、お姉さんの事、確かに会った時から気になってるから、夢に出てくるしドラムも始める切っ掛けになったけれど、これは好きという恋愛感情ではなく憧れに近いのではと思うから……。

この俺の感情はしばらくして変わった。
お姉さんたちと何度もセッションしていって気づいた。
「こういう事か…。」
「どうした?」
「初めてセッションした日にさ、このスタジオに来る前に、お姉さん、僕があなたに恋してるって言っただろ?うん。…確かにそうだ。俺、このバンドもお姉さんを守りたいと思ってるし、どっちにも恋してるんだって気づいた。」
俺がこう思えるようになったのは、お姉さんを知るようになったからだろう。4、5年の間、俺がお姉さんを忘れた空白の時間もお姉さんは僕を待っていてくれた。
その粘り強さと、どこか父親に似たところがあるバンドの温もりとお姉さんの性格。
それが好きだった。しかし、お姉さんは日に日にやつれていってるのが分かった。セッション時間が短くなっていく。
俺は怖かった。
もしかしたらお姉さんはいなくなるかもしれないと思えたし。
生きた屍状態から復活したバンドがまた生きた屍に…今度はただの屍になって復活できないかもしれないと思ったからだ。
「私は少年に恋したし、わたしは君に恋をした。」
「俺はお姉さんに恋したし、オレはあなたに恋をした。」
「なんだ。分かるようになったのか。ずいぶん時間かかったね。」
「私と少年ってのは、お姉さんと俺の事で、わたしと君ってのは、ベースとドラムですよね。」
「気づくの遅いね。」
「いいじゃないですか。気づいたんですから。俺は生きた屍を愛したから生かし続ける事にした。そしたら分かりました。」
「なかなか、兄さんに似てきたね。浩一君。」
「え…………?」

ーENDー

あとがき:ここまで読んで下さってありがとうございます。
今回の話は、リア友からのお題提供から膨らませた話です。
知り合いのお姉さんと心の距離を近づけるという…そんな感じの。
それで、ずっと書きたいなと思っていたバンドの話と一緒にしてしまいました。
浩一君が今後どうなるかはご想像にお任せしますw
最後に名前呼ばれて良かったね。浩一君。じゃなきゃずっと名前出てこないとこだったよ。あぶねー←
では、また別な作品で。

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